運転手は後部座席の下から三つ折りのスロープを取り出し、車両側面に設置しようとしたが、固定用の器具の取り付け先がわからない。トランクから分厚い説明書を取り出して確認したが、やはりうまくいかない。見かねた中村さんが「固定しなくても大丈夫だと思います」と切り出すと、運転手はいったん車内に入り、助手席と後部座席をたたみ、運転席を前に移動。車いすを押して中村さんを車内へ移動させた。

 ここで新たな難関が。車内で車いすを前向きに直さなければならないという。スペースがぎりぎりのため、中村さんは何度も切り返してようやく向きを変えられた。もう少し大型の車いすだと、乗車は難しそうだ。

 次は固定。運転手が車いすを固定するベルトやシートベルトを着けようとしたが、うまくいかない。利用する側も運転手も申し訳ない気持ちになり、互いに「すみません」を連発。結局、いくつか手順を省いたにもかかわらず、ドアが閉まって走り出すまでに14分かかった。

 同様にスロープを使いベルトで車いすを固定する東京都営バスでは、乗車に平均4~5分しかかからない。都交通局によると、全乗務員が年4回安全研修を受けるといい、タクシーでも乗務員の研修強化が急務だ。スロープや固定器具、ベルトなど車両側の改善も必要だろう。

 ユニバーサルデザインタクシーは日産自動車も2車種を販売している。国や自治体が導入を後押ししており、東京では国と都が計約100万円を補助。全国ハイヤー・タクシー連合会のまとめでは今年3月末現在で4772台が導入され、うち75%がジャパンタクシーだ。

 中村さんらは集まった署名を11月29日午後、トヨタの名古屋オフィスに提出した。トヨタの担当者は中村さんに「署名以外にもご意見を頂いており、すでにスロープの改善に向けて動いている」などと話したという。(編集部・深澤友紀)

※AERA 2018年12月10日号

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