トヨタの「ジャパンタクシー」のウェブサイト上の動画マニュアルを見ると、乗車までの手順は30工程以上もある。車いす利用者への留意事項として、「10分程度お時間を頂きます」の表記も(撮影/編集部・深澤友紀)
トヨタの「ジャパンタクシー」のウェブサイト上の動画マニュアルを見ると、乗車までの手順は30工程以上もある。車いす利用者への留意事項として、「10分程度お時間を頂きます」の表記も(撮影/編集部・深澤友紀)
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 車いすでも利用できるユニバーサルデザインのタクシーが増えている。ところが現場では、車いす利用者の乗車拒否が起きているという。一体なぜ?

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 ロンドンのタクシーを思わせるクラシック風な箱形の車体。2017年10月に発売されたトヨタ自動車の「JPN(ジャパン)タクシー」が、各地で目立ち始めた。足腰の弱い高齢者や背の高い外国人なども乗車しやすいよう床面を低く、車内空間を広く設計してあり、車いすのままで乗れるのも特徴だ。

 ところが、実際に車いすで生活する人たちからは「乗車や予約を断られた」「乗るのに時間がかかりすぎる」といった不満の声が上がっており、改善を求めるネット上の署名活動には1万1715人分が集まった。

 署名活動をしたのは、愛知県在住の中村仁さん(67)。自身も車いすで生活している。

 今年4月、電話でタクシーを呼んだらジャパンタクシーがきた。「やったー」と喜んだのもつかの間、スロープ設置に時間がかかると言われ、自力で車いすから床面に移り、運転手に抱き上げてもらって席に着いた。

「これはないだろう、とショックでした」

 その後3回ジャパンタクシーに乗ったが、すべて車いすを降りて乗車したという。

 乗車はそれほど難しいのだろうか。11月下旬、中村さんの外出に同行させてもらった。

 前日、予約のために愛知県内のタクシー会社へ記者が電話をかけた。タクシーの保有台数が多い会社から順に掛けたが、「対応できる乗務員がいない」「台数が少ないのでジャパンタクシーを指名して予約できない」など8社に断られ、9社目でようやくOKの返事。ただ、「乗務員によっては不慣れで乗れない可能性もある」という条件付きだった。

 当日。予約時間の数分前にジャパンタクシーが到着した。運転手に車いすでの乗車をお願いすると、「だいぶ時間がかかりますが」と恐縮した様子。聞けば、車いすの乗車は初めてで、研修でも実際に作業を体験したことはないという。

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