今年5月に第2子の育休から復帰した冨樫亜也子さんは会社の飲み会には3年ほど参加できていないという。

「だからお昼にいろんな人とコミュニケーションを取れるのがとてもありがたい。出産前から、ランチをしながら子どもの話もよく聞いてもらっていたので、育休から復帰するときもあまり不安はありませんでした」

 今年入社したばかりの行川奈央さん(23)はディレクター職としてエンジニアや営業担当者とどうコミュニケーションを取ればいいのか悩んでいたときに、ランチの場で相談してみた。すると「みんなの動きが見える位置にいることが重要。メールのCCに積極的に入れてもらったら」と助言をもらい、トラブルなども予測して対応できるようになったという。

 執行役員社長室長の曽根康司さん(46)は「コミュニケーションのベースがつくられるので、業務もスムーズに進行できる」と話す。2005年に創業し昨年東証1部上場を果たした同社のパワーは、ランチタイムに生まれているのかもしれない。

 運用型広告コンサルティングのアナグラムでは隔週の金曜日の夕方4時半から6時まで、社内で「TGIF」という会が開かれる。これは「Thank God, It’s Friday」の略で、「金曜日で良かった!」といった意味で使われる英語の俗語だ。日本語で言うなら「花金」といったニュアンスだろうか。

 会社の経費で買ったお酒やジュース、お菓子、ときには軽食などを手に、社員同士でコミュニケーションを取っている。業務時間内だから、誰もが参加しやすい。

 5歳の娘がいる山元勝雅さん(31)は、前職では娘の寝顔しか見られなかったというが、今は午後7時には帰宅し、一緒に晩ごはんを食べる。TGIFの日もそうだ。

 でも、業務時間内に飲んで大丈夫なの? 阿部圭司代表取締役(38)は言う。

「5年前にTGIFを始めてから業績はマイナスになっていないし、飲食しながらリラックスして話すことで机の上で考えるより柔軟な発想が生まれやすい。例えばもやしのレシピを閲覧する人は節約目的ではなくダイエットの広告に反応するかもしれない、とか」

 同社には、自分が関わっていないビジネスについて分析し、改善案をプレゼンする仕組みがある。かつては言われた側が人格否定をされたように感じて、社員同士がぎすぎすした時期があった。それも、TGIFというコミュニケーションの場をつくることで、建設的に受け入れられるようになったという。

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