一方、飲み会にせよ、食事会にせよ、仕事を離れて外に繰り出せば普段と違った環境に身を置くことになる。

「いつもと違った場所で会話すると、自分の感覚も変わります。相手の新しい一面に気づけるなど、コミュニケーションが深まるでしょう」

 新たな気づきを得るための場として、会社を離れて豊かな自然に囲まれた研修施設などを使った研修を導入する企業は多い。また、住み慣れた土地を離れ、温泉地など別な環境に身をおく「転地療養」も古くから知られている。『アルプスの少女ハイジ』で、クララはフランクフルトからアルムの山の中に移ってめきめき元気になり、ついには立ち上がった。ところ変われば、意識も変わるのだ。

 ここまで、「飲み会」がもたらす効果を見てきたが、アルコールそのものが持つ効果についても研究が進んでいる。なかでも今年、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らが発表した研究結果が話題を呼んだ。池谷教授らは、アルコールに共感を強める作用があることを突き止めたのだ。

 編集部はこれを、飲み会が持つ効果のひとつ、「お酒でイエス効果」と名付けた。

 マウスは恐怖を感じると動かなくなる性質がある。実験では、マウスに仲間のマウスが電気ショックを受けているところを見せ、動かない時間を測定。アルコール(エタノール)を投与してから同じ実験をすると、動かない時間が延びた。エタノールによって生じる脳内プロセスによって、共感が促進され、自分自身が痛みを受けているかのような神経活動がより強く生じたと考えられる。

 心理学的にも、アルコールによる酔いには、感情が伝わりやすくなったり、同じ感情を持ちやすくなったりする効果があると考えられているほか、適度にアルコールを摂取したほうが直観力や発想力が高まるという実験結果(米イリノイ大学)もある。

 もちろん、アルコールに依存症の危険があることは決して忘れてはいけないし、飲みすぎて前後不覚になったり、飲めない人に飲ませたりするのは言語道断だ。

「飲みニケーション」が改めて見直されている時代。私たちが経験則として感じていた「飲み会やお酒によってコミュニケーションが深まる」という現象は、科学的にも裏付けられると言えそうだ。(編集部・川口穣)

AERA 2018年12月3日号より抜粋

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