私には双子の姉がいて、愛知県大府市に住んでいます。彼女を頼る選択肢はありました。ただ、私は日本には行きたくなかった。リビウにいる夫と遠くなるから。でも、あるとき夫が、「会えないのはドイツでも日本でも同じでしょ。違う家族と一緒に住むより、日本でお姉さんと住んだ方がいい」と言ってくれたんです。私は子ども2人と日本に行くことに決めました。

 日本には4月30日に到着しました。姉の家で1カ月ほど過ごし、6月からは大府市が無償で提供してくれた市営住宅の4DKに住めるようになりました。「やっと自分の家が持てた!」。これほどうれしいことはなかったです。

 6月になり、子どもは小学校に通い始めました。夫も日本に避難してくることができ、また4人一緒の生活も始まりました。日本の皆さんからいただいた支援金などをできる限り切り詰めて、何とか生活しています。12月に事故で手首を骨折した夫に仕事が見つかれば、少し楽になると思います。

 心配なのは、ウクライナにいる親戚のことです。夫の母はまだハルキウにいます。毎日のように電話をしますが、頑として祖国を出るつもりはないようです。私の兄もハルキウにいます。当然ながら、いまのハルキウに仕事などありません。彼にお金がない時はときどき、送金して助けることもあります。ウクライナにいる私の友人の一人は兵隊ですが、3月に再び、ロシア軍によるハルキウへのより強力な攻撃があるだろうと話していました。とても気がかりです。

 私は、この戦争が終わってほしいと心から願っています。ウクライナという美しい故郷に、再び平和が来ることに希望を持っています。いまウクライナ人は皆、ロシアのことが好きではないでしょう。でも、私が生まれたときはロシアとウクライナは同じ国でした。ロシア人にもいい人はいる。それは理解しています。いつかまたよい関係を持てるのでしょうか。先のことはわかりません。

 正直な気持ちを言えば、プーチンはこの世からいなくなってほしいです。でも彼がいなくなっても、今のロシアでは代わりの誰かが現れるだけでしょう。

 ハルキウに戻りたいかとよく聞かれます。それができるのは2年後か、3年後か。考えても仕方がありません。いちばん大切なのは「いま」です。日本で子どもたちが穏やかな生活を送れていることが何よりも大切。将来のことは、またあとで考えればいい。そう思っています。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年2月27日号

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