若年性認知症の親を持つ子どもは仕事と介護に奔走する親を見て、家事や病院の付き添い、きょうだいの世話、入浴やトイレの介助などを手伝う。こうした18歳未満の介護家族は「ヤングケアラー(子どもケアラー)」と呼ばれている。
東京都に住む大学生の大橋尚也さん(24)は、中学時代からヤングケアラーになった。父親(59)が若年性アルツハイマー型認知症と診断されたのは49歳のときだ。
病気になる前の父親は、社交的で優しいが、「間違ったことは許さない」という一本筋の通った頑固さを持っていた。ところがある日突然、会社を辞めてきた。「どうして会社を辞めたのか」「新しい勤め先のアテはあるのか」、家族に何も話さない。
さらに暴力的な行動が目立つようになった。突然、部屋に入ってきて「この野郎!」と殴られたり、母親をベランダに引きずり出して突き落とそうとしたりしたこともあった。
そんな大立ち回りがあっても、翌日、父親は前日のことなど、すっかりなかったかのように、「おはよう」と挨拶する。日常生活でも物忘れが多くなった。
当初、誰も病気による変化とは思いもしないので、母親は「離婚する」とまで言い出した。大橋さんが口出ししたくても「夫婦の問題だ」と間に入れない。
11年たって、大橋さんは当時のことを、こう振り返る。
「同じ家族なのに『私だけ、子どもだからといって、蚊帳の外かよ』と怒り半分、さみしさ半分の気持ちだったんですよね」
近所の人からの助言で受診した心療内科で、父親は「うつ病」と診断された。後に誤診と判明するが、当時は母子で父親の変化が病気によるものとわかり、腑に落ちたという。さらに半年後、物忘れがひどくなり、別の病院で若年性認知症と診断されて以降、母親が働いて生計を立てるようになった。
大橋さんは私立高校を進学先から外し、塾に通わず、都立高校一本の受験をクリアした。大学も「親に金銭面で迷惑をかけたくない」と考え、アルバイト代で授業料を支払える通信制を選んだ。