認知症の患者数は2025年に700万人を超えるとみられる。かつて「恍惚の人」とされた価値観は変わった。当事者と家族、介護者それぞれの思いを大切に認知症と向き合うにはどうすれば? その橋渡し役をAIが担い、介護現場を劇的に変える日は、すぐそこまで来ている。
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認知症当事者と家族の思いは、必ずしも同じではない。だが、当事者による発信が容易ではないぶん、介護する家族が抱える悩みや葛藤などのほうが語られ、結果的に多く知られることになる。この偏重に注目し、当事者と家族を中心に据え、情報学から認知症にアプローチして環境を改善させようという取り組みがある。静岡大学の竹林洋一特任教授が立ち上げた、「みんなの認知症情報学会」だ。
認知症情報学という学問の必要性を、竹林特任教授は訴える。
「認知症には、現時点では確立された予防や治療法はありません。専門家や地域でさまざまな取り組みが進んでいますが、認知症ケアは発展途上にある。ケアを向上させるためには、認知症を個性と捉え、エビデンスや経験値を集める必要があるのです」
認知症は原因疾患が70~80もあると言われ、中核症状も人により異なる。時と場合によって症状の出方も変わる。一口に認知症と言っても、いま目に見えている症状だけで患者の状態がすべて把握できるものではない。つまり、この入り組んだ膨大な「情報」をもとに、認知症を読み解けるかもしれないという見方もできる。
「こうした複雑な情報こそ、人工知能(AI)と情報技術(IT)の得意分野です」(竹林特任教授)
学会は、認知症の状態を考える「認知症見立て塾」や、その当事者に合った生活環境を整える「生活環境デザイン塾」など複数のワーキンググループを設置した。同学会で研究を行う静岡大学の石川翔吾助教は言う。
「見立て塾では、認知症の状態を『みんな』で学びます。症状には改善できる原因もあり、身近な人が気づけば、支援の質が大幅に向上します」