16年の段階では、経済危機は杞憂で済みましたが、今回はそうはいかない可能性があります。まるで、2年前の消費増税延期の理由が今になって生きているかのような状況です。そんな時に消費税率10%への引き上げとなれば、より負担感が高まり、消費がかなり冷え込んでしまうかもしれません。

 それでも消費税増税を断念できない理由が安倍政権にはありました。増税を断念すれば、25年度のプライマリーバランスの黒字化は、ほぼ絶望的です。そうなれば日本の財政再建に対する信任が揺らぎますから、安倍晋三首相は消費税の引き上げは100%すると断言し、駆け込み需要と反動減を抑えるための経済対策などをまとめるように指示せざるをえなかったのではないでしょうか。

 しかしいくら国際公約とは言え、実際に景気の落ち込みが予想されるとき、果たして消費税率の引き上げができるのかどうか。そこが安倍政権のジレンマになりそうです。参院選や地方選挙、さらに憲法改正の問題も絡んで、もう一度消費増税引き延ばしの是非を問う総選挙もないとは言えないかもしれません。

※AERA 2018年11月5日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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