鳥海准教授がネットやSNSの「炎上」の分析を始めたのは東日本大震災の直後。当時活発だった反原発運動の「攻撃性」に関心を持った。ネットやSNSで「敵」を攻撃するのは「ネット右翼」に限らない、と確信したという。

「政治的に右の人も左の人も、自分が信じるのと異なる世界観を持つ人に対しては、自分たちが持っている情報を持っていない、つまり正しい情報にたどりつけていない無知で可哀想な人たちだと思っています。なので、正しいことを教えてあげるため、『正義』を発揮したいという心理が働くのです」(鳥海准教授)

「正義の味方」であるという自己認識が強ければ強いほど、攻撃的になる。

 政治的な考え方の違いと、差別や偏見を助長する言説の良し悪しを論じるのは全く別次元の問題だ。露骨な民族差別を発信するヘイトスピーチは、「政治的発言」を逸脱するものだが、これも直接的なレイシズムに働きかけるのではなく、「彼ら(マイノリティー)は本当の弱者ではない」といった「ひとひねりした論理」を介在させることで共感を集めている面がある。

 たとえば、「弱者を装うマイノリティーが特別な権利を享受している」とのネット情報に接し、それが「隠された真相」なのだと信じる人にとっては、自分たちは「搾取された被害者」であり、不条理をただす行為は「正義」の発露として正当化される。

 このメカニズムに着目することが重要だと鳥海准教授は説く。

「『差別しよう』というストレートな呼び掛けに応じる人はほとんどいません。しかし、『あなたは正義だから、彼らを差別してもいいんですよ』と言われれば、お墨付きを与えられたように受け止められる。これがミソなんです」

 ネット空間だけのつながりであっても、誰かに「正義」の側にいることを保証してもらった上で実社会での活動を推奨されれば、行動をエスカレートさせることもできる、というわけだ。これが人間の本能に由来するのであれば、どう抗えばいいのか。

「『敵』を罵る前に、自分たちのほうが、情報が不足している可能性がないか考えてみるのもよいのでは」。鳥海准教授はそう助言する。

 冒頭の佐々木弁護士が、懲戒請求を出した人たちの一部と直接対話したときのことだ。そもそも朝鮮学校にかかわる活動に佐々木弁護士が関与していないことを告げると、電話口で「えっ?」と驚いたり、絶句したりする人が多かったという。

 誰もがメディアの発信者にも受け手にもなる時代。玉石混交の膨大なネット情報を前に私たちにできるのは、自分の「正義」を常に疑い、少しでも真実や本質に近づこうとする真摯な営みを重ねることに尽きる。差別や偏見をなくし、議論がかみ合わない社会をどう克服していくかは政治の左右のスタンスを超えて問うべき課題である。(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年10月22日号

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