悩みや絶望感と向き合う仏教者たちに通底するのは、不安を抱える人への「深い共感」だ。地震や台風など未曽有の自然災害が多い今、被災者の心のケアにも仏教者は寄り添っている。
16年4月に起きた熊本地震でもっとも大きな被害を受けた熊本県益城町(ましきまち)。今年9月下旬の午後、町の仮設住宅の集会所に、真宗大谷派浄玄寺(じょうげんじ)(熊本市南区)の16代目住職・吉尾天声(てんせい)(53)の姿があった。大きな体をかがめ、被災して夫と2人で仮設住宅で暮らす78歳の女性とこんな会話をした。
女性 まだ家は再建できんばい。
吉尾 もどかしいですね。
女性 時間がかかるけど、コツコツとやっていくばい。
この日開かれたのは、移動傾聴喫茶カフェ・デ・モンク。モンクは英語で僧侶の意で、「文句」の意味もかけられている。3時間ほどの間に、仮設住宅に暮らす40人ほどの住民が訪れ、僧侶たちと談笑したりした。
「お茶とケーキをふるまって、話を聞く。それだけなんです」
そう話す吉尾は臨床宗教師でもある。布教を目的とせず心のケアに取り組む僧侶や牧師ら宗教者のことで、11 年の東日本大震災を機に誕生した。吉尾は13年、東北大学で開かれた養成講座に参加。実習で宮城県石巻市の仮設住宅のカフェ・デ・モンクに行き、家や家族を失った人の喪失経験やこれからの不安や悩みなど、さまざまな「文句」に耳を傾けた。そこに居続けて思いを受け止めることの大切さを実感したという。