「前から一度来てみたいと話していました。明日からは子どもたちに囲まれて忙しく働くので、今日はいい『気』をたくさんいただいて帰ろうと思って」
三峯の宿坊に泊まり、聖神社へ参るという別の女性2人連れも、「営業職なので、神社仏閣巡りをして、心の洗濯をしようと秩父にきました」と話す。
いま、秩父が社会人、特に働く女性たちの間で、静かなブームを呼んでいる。秩父には、三峯神社、聖神社をはじめ、あまたの神社がある。そして、やって来た人の多くが、ご利益よりも、「空気に惹かれた」「リフレッシュできた」ことを語る。
三峯神社の権禰宜(ごんねぎ)である山中俊宣さんも、実は、三峯の空気に惹かれて、神職についた。高校生の時、アルバイトで社務所に入ったのがきっかけ。山の抱く空気に圧倒され、こんな場所で働きたいと三峯神社に奉じて、18年になる。
「ここには言葉では言い表せない何かがあると思います。来れば、きっとわかる。神社は今日あることを感謝する場所。ご自分の心を見つめなおすきっかけにしてくれれば」(山中さん)
秩父市黒谷にある聖神社も、近年特に人気を集める。慶雲5(708)年に自然銅が発見され、「和銅」への改元と和同開珎鋳造の契機となったと伝えられている。銭神さまとも呼ばれ、拝殿の絵馬には「宝くじが当たった」など、金運を授かったとの声が躍る。元明天皇から下賜されたという雌雄一対のムカデのご神宝も保管されている。神社から15分ほど歩いた沢のほとりには和銅遺跡があり、貨幣発祥の地を記念する和同開珎の巨大なモニュメントもある。
だが、参拝客で賑わうようになったのは、地域の人と力を合わせて盛り上げた、平成20(2008)年の1300年祭以降のことだ。禰宜の増田忠三さんは言う。
「昔から変わらずあるものに、人々がやっと気づいてくれたのだと思っています」
今日では、口コミで噂が広がり、参拝客が自然発生的に沢でお金を洗うようになった。
「お金は多くの人の手を回ってくるものですから、それを清める気持ちで洗うといいかもしれません」(増田さん)
確かに、流水に触れるだけで、どこか澄んだ気持ちになる。