一方、著書『頭に来てもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)が「イライラが一瞬にして消える」と好評で60万部を突破した田村耕太郎さん(55)は、経済的な背景を指摘する。「小さく、貧しく、老いていく」のが日本の現状であり問題で、それが「怒り」や「嫉妬」など負の感情が増大している原因でもあると分析する。

「日本は急速に貧しくなっています。人口減少や高齢化で先行きに明るさが見えず、給料も昇進ポストも減り、終身雇用も揺らいでいます。一方で税や社会保険料はどんどん増え、生活や精神の余裕がなくなっていると推察します」

 日本の人口や経済が右肩上がりだった頃は、日本型組織も成長の原動力として機能してきたが、人口減少、高齢化、賃金減少、負担増加、大企業のグローバル競争の劣勢など敗色が濃厚になると、国民の不満は高まるばかりとなる。

「ここから脱してクリエーティブに生きてもいいのですが、萎縮する人物をつくりだす教育のせいでそういう人はほとんど現れません。不満を持ちながらも同調圧力に屈し、その不満がさらに強い同調圧力を周囲にかけてしまう。結果的に自由に生きて成功する人、経済的に成功する人、空気を読まない人たちを引きずりおろそうとする力が社会で強まっているのではないでしょうか」(田村さん)

 すべてが低迷し窮屈になって、同じ組織の中でみんながイライラしている。怒ったり妬んだりしてもうまくいくことはほとんどないとわかっていても感情的に許せない──。

「貧すれば鈍する、ではないですが、経済をよくしないとどうにもならないのではないでしょうか」(同)

 日本の人口は2100年に向けて減っていくと言われており、明治初期のころと同程度の約4千万~5千万人になると予想されている。しかし明治初期は64歳以下の人口が9割くらいだったが、2100年は高齢者が4割を超える推計だ。

「安倍首相は、人口は1億人を割らないと言っていますが、日本の出生率では不可能なので外国人を受け入れるしかありません。若いアジアの人などに入ってきてもらい、ポジティブで、ある意味のんびりしているような新しい風を入れる必要があります」(同)

 多様な人が日本に来ることで、いろいろな考え方があることを知り、違っていていいんだと思えるようになる。それが日本人の考えをポジティブにすると田村さんは考える。

「同調圧力がかからない人が増えれば、負の感情は減っていきます」

 人口増を前提としてきた日本のシステムが限界に来ており、それによって不安が増大し、それが怒りや妬みの感情に転化される。外国から新たな風が吹くなど環境が変われば、そんな状況も克服できるかもしれない。

「子どもの頃から自由な感覚を身につけてもらうことが大事です。同調させない。先生が威嚇して同じことをさせる旧来の教育ではダメです」

(編集部・小柳暁子、川口穣)

AERA 2018年10月15日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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