顔に向けられる視線にはストレスを感じる。不躾な対応は疑問だ。症状を自覚した小学生の頃から、この問題に向き合ってきた。自分のことを話すかどうかは、相手や聞き方にもよる。
見た目問題を研究する当事者も増えた。9月、東海大学大学院を修了した神原由佳さん(24)もその一人だ。
「大学院に来れば?」と堀越由紀子教授に誘われたのは、大学4年に上がる直前。その理由を、堀越教授は明かす。
「彼女はとても『いい人』で、自分を抑制しても人に親切にする。黒板の字が読みづらいのに後ろの席に座る。でも、自分のことはどうなの? もっと自分本位に生きてほしいと思ったんです。『見た目』は見てすぐわかるのに、世の人は目を伏せがち。見た目問題をもっと掘り下げてほしくもありました」
横で聞いていた神原さんが笑う。
「軽い感じで誘ってましたよ。そんなに深く考えてくれていたんですね」
神原さんは、アルビノの当事者だ。アルビノは生まれつき色素が少なく、肌や髪の色が薄い。弱視もある。
学部時代は見た目問題と当事者、家族、世間について研究した。修士論文では親たちの語りを収集した。当事者が問題を隠すか隠さないかに、親の影響が大きいとわかっていたからだ。
眼瞼下垂、口唇口蓋裂、アルビノ、トリーチャー・コリンズ症候群など、当事者の父母15人に話を聞いた。神原さんの論文は、問題の多様性を浮き彫りにしつつ、親の視点での受容の過程や葛藤を教えてくれる。
じゃあ、自分の親は──?
執筆の終盤になり、両親に取材するために、修了を半年延ばした。だが、予想に反して、自分の親の取材は「手応えがなかった」。母親から「半分背負っている」と思いを聞いたが、父親は「いい意味で気にしていない」。人より色素が薄いが愛しい我が子。神原さんは真っすぐな愛情を受けてきた。
「見た目問題の当事者は、赤ちゃんのころの写真が少ない人が多い。両親が症状を受容するまでに葛藤するからです。でも、私は赤ちゃんの頃からたくさん写真がある」(神原さん)