生まれつきの疾患や病気、事故で顔や体に異変が出る。「容貌障害」を「見た目問題」と呼ぶ動きが広がっている。当事者の生きづらさは、世間によっても生じるからだ。
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「最後の砦と考えていた店の面接に行った。今回はダメだったけど、店長と色々話せて、得たものは大きかったよ」
そう話す辻西真宜さん(23)が受けた職種はホストだ。採用に至らなかった理由は「滑舌」だった。
「次回までに滑舌をあげようと思って、自分の声を録音して聞いてみるようになった」という辻西さんに、隣に座った渡邊浩行さん(28)が「前より聞き取りやすいんじゃない?」と返す。
辻西さんと渡邊さんにはトリーチャー・コリンズ症候群がある。先天性疾患で、垂れた目や頬骨や下顎の形成不全など特徴的な見た目のほか、難聴などが現れる。下顎が小さいため、滑舌よく喋ることが難しい。二人は患者会を通じ、10代から10年来の友人だ。この4月、地元から辻西さんが上京し、会う機会が増えた。辻西さんは言う。
「会えばなんでも話しますよ。『見た目問題』当事者あるあるも、下ネタも」
「見た目問題」とは、生まれつきの痣(あざ)や、事故や病気による傷、火傷痕、脱毛など「見た目」に症状のある人々が、差別や偏見のためにぶつかる問題のこと。容貌障害という言葉もあるが、生きづらさは見た目そのものではなく、「世間」によっても生じるという意味を込め、いま、当事者の多くはこの言葉を使っている。
見た目にまつわる諸問題が日本で認知される大きな契機は、これまでにおそらく2回あった。
1度目は、当事者団体のNPO法人ユニークフェイス(2015年解散)の活動と、書籍『ジロジロ見ないで』(03年刊)の出版。
もうひとつは、NPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)の活動が知られたことと、昨年の書籍『顔ニモマケズ』の出版だろう。多くのメディアが「見た目問題」を継続的に取り上げるようになり、発信の幅が広がっている。
一方でジレンマも生まれた。