着物は自前。スチール撮影で着た縞のは、(夫の)内田(裕也)の母の形見なの。普段着の藍のワンピースは、白洲(正子)さんの店にあった刺し子の半纏から作った。白洲さんが「こうげい」を閉店したとき人づてにいただいて、たんすの肥やしになっていたからもったいないと思って。

 でもね、是枝さんの映画では(私の服は)いつもアッパッパーなの。紫がかったブルーみたいな曖昧な色の。いやなのよぉ。衣装の黒澤和子さんがいつも申し訳なさそうに持ってくる。アッパッパーって、(昭和のころ)着物を着ていた女性たちが楽だからって着だした、洋服ともいえないものでしょう。服に文化がないの。好きでない。

 人間をいかにして自分の身体を通して表現するか。それが役者の仕事なんだけれど、「万引き家族」がパルムドールを受賞したのは、個々の人間がどうやってそこまで生きてきたかを、丹念に見ながら積み重ねていった結果なんじゃないかと思う。どの役もみんな生きているでしょう?

■大好きだったチョイ役、ギャラが一緒なのよ

 そのへんは、私はテレビのチョイ役で鍛えられたわね。脇で、ちょっと通り過ぎていく役なんて、一瞬でもって人生を出さないといけない。でも台本に、その前後は書かれていないから自分で全部考えないといけないのよ。

 この間、朝日新聞の取材でも話したんだけれど、少し前に中村敦夫さんと会ったときに「木枯し紋次郎」に私が宿の飯盛り女の役でワンシーン出ていたときの話になった。あくびしながら飯を盛って出して、「面白い演技をする人だな」と中村さんは思ったんですって。それを聞いて「あら、いいじゃない。ギャラをもらう分、私、ちゃんとやってきてるじゃない」って思った。天皇陛下にお出しするんじゃないんだから。三度笠かぶった汚い男に出すわけでしょ。あくびくらい出るわよね。彼女にしてみれば日々繰り返される日常のひとコマにすぎないんだし。

 で、チョイ役がまた大好きだったの。ギャラが一緒なのよ。たくさん出ても、チョイ役でも。チョイ役をたくさんもらったほうが家のローンを返すのに効率がいいわけ。顔が売れたいわけでも、名前が売れたいわけでもないからなんの躊躇もなかった。(悠木千帆の)名前なんか売っちゃうくらいだから。

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