是枝さん、これでファーストクラスに3回くらい乗れるわね。私は是枝さんから聞いた話で、大好きなエピソードがあるの。是枝さんが小学校半ばごろの話なんだけれど、学校の先生に「是枝君、あそこで騒いでいる生徒たちを静かにさせて」「この子たちにこっちの掃除させて」って。「是枝君」「是枝君」と言われるたび、「はい」「はい」って先生に言われる通り、一生懸命やってたんですって。それで、その年の通信簿が配られて、その通信欄に書かれていた、先生のひと言が「是枝君は、子どもらしい伸びやかさに欠ける」。

 笑ったわねぇ(笑)。おかしいでしょう。でも、大好きなエピソードなのよ。先生はなにげなく書いたんだろうし、実際そうだったんだろうと思う。だけどなにか後まで響くわよね、こういうのって。で、人生をそうやって見てきているのが是枝さんなのよ。
「万引き家族」で思い出すことといったらとにかく寒かった。夏のシーンは海のロケ以外は12月、1月の真冬に撮影して。服は夏のアッパッパーでしょう。下に穿いたもも引きが何かの拍子に見えちゃうと、是枝さんが優しい声で「もう一回、いこうか」って。
 汚くて、うすら寒くて。人相まで悪くなりそうな現場だった。そういう作品ではあるんだけれども。とにかく早く帰りたかった。

■着物は夫・内田の母の形見、服は白洲正子さんの刺し子

 もう一本公開中の山崎努さんと共演した「モリのいる場所」では、監督の沖田(修一)さんに「あなた生き残るわよぉ」って言ったの。えらそうだけど。役者の芝居をよく見ているの。

 映画のなかで短い時間だけれど、着物を着て。なくても成立したんだけれど、着て良かったわ。私たちが着物の着られる最後の世代だなと思ったわね。映画監督でも女の人の着物の見極めがつく人はもうほとんどいないでしょう。

 着物は着方ひとつで、その人が素人なのか玄人なのか、どういう状況なのかがわかる。同じ寸法で作ってあっても、帯の位置や襟の抜き方とかによって変わるのよ。当時の文化人の妻だったら、来客があるときに着物に着替えただろうなと思って。襟はあまり抜かず、わりかし素人っぽく着た。

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