

サッカーW杯で優勝したフランスのヒーローはアフリカ系移民だ。だが明るいニュースの裏側に、複雑な人種問題が透けてみえる。音楽教育プロジェクトを描いた映画が暗い現実に光を当てる。
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はじめは不協和音を奏でていた子どもたち。ぶつかり合い、葛藤し、次第に足並みをそろえ、予想もつかないラストを迎える。
「貧しい移民の子どもたちが文化の力で現実を超えていく過程を描きたかった」
公開中のフランス映画「オーケストラ・クラス」を監督した同国のラシド・ハミさん(33)は話す。舞台は仏パリの小学校。移民の子どもたちが多く集まる地区にある。アフリカ系、アラブ系、アジア系と、文化背景が多様にひしめく。
物語は「デモス」という実在の音楽教育プロジェクトが土台だ。音楽に触れる機会が少ない子どもに、無料で楽器を贈り、プロの音楽家が指導にあたる。
このプログラムには、これまで2千人以上が参加。名演奏が生まれたり、音楽を志す子どもが続出したり、めざましい成果を上げてきた。
「成功例は話題になる。その過程を丹念に追いかけることで、移民の現実を伝えたかった」
こう話すハミさんは、2年にわたり、移民が多い地区で「デモス」の現場を見てきた。
フランスは今、移民をめぐり、複雑な事情を抱えている。貴重な労働力として、これまでは数多くの移民を受け入れてきた。その多くは元植民地、フランス語圏の国々からだ。移民の数は世界銀行の発表によれば国民全体の12.1%を占めるまでになった(2015年現在)。
ハミさん自身も、アフリカのアルジェリアで生まれ、8歳のときに内戦を逃れて家族とともに移住した。近年、移民への風当たりの強さを肌で感じている。
「経済状況が下向きになり、社会不安を生み出す原因として、移民に不満の矛先を向ける風潮が高まっている」
とはいえ、サッカーW杯で優勝したフランスのチームはアフリカ系の選手がヒーローだった。マリ出身の男性が、映画のスパイダーマンのように壁をよじ登って子どもを助け、市民権を与えられたことも明るいニュースとして話題になった。