──クリエーターとしてお二人は90年代と、いまの時代をどう感じますか?

川村:90年代はみんなが同じものを一緒に「いいね」って言えた最後の時代だと思うんですよね。いま300万枚以上のCDセールスなんて出ないけど、この映画でかかる90年代のJ-POPは全員が知っている。いまは音楽もカルチャーも複雑化していて、全員で何かを共有することがない。あの「強さ」みたいなものはなんだったんだろう、と。

大根:だからいまって「大迫、半端ないって!」みたいなものに、意味なく掴まれるよね。

川村:そう。大勢がある種の「ムード」「気分」をどう共有できるか?を探っているというか。

──それでも「モテキ」や「君の名は。」のような大勢を巻き込むヒットは生まれますよね。

川村:でも僕らは自分たちの観たいものを素直に作ってただけなんです。「モテキ」ではお互いの好きな曲をテープにした「マイベスト」を交換しあったり。

大根:したした(笑)。

川村:自分たちが「好き!」と思うものを同じように思ってくれる人が何万人、何百万人いるか。結局、そこの勝負でしかないのかなあと。

大根:「こういうの好きでしょ?」って姿勢で作ったものは簡単に見透かされますからね。

川村:大根さんの映画にはいつもドキュメンタリーとフィクションが交差するような瞬間があるんですよ。僕はそれが大根作品のおもしろさだと思っている。

大根:たしかに撮っていて自分の想像を超えた瞬間が一番楽しい。今回だと(広瀬)すずちゃんがコギャル化していって、夜の街で「カラオケ行こうよ」って声をかけてきたサラリーマンに「うるっせえよ! 1億(円)出せよ!」って怒鳴るシーン。あれ、ほぼアドリブなんです。

川村:そうだったんだ!

大根:あの瞬間に「この映画、掴めた!」と思った。これこれ、この調子に乗ってる感じ!って。

川村:今回、大根作品の常連、リリー・フランキーさんがすごく映画を褒めてくれていて。リリーさん演じる探偵はまさに僕らの目線を代弁してくれていますよね。昔コギャルだった篠原さんを前に「あんたたち、調子乗ってたよね~……」って。

大根:結局のところ、みんなうらやましかったんだろうな、と。

川村:日本人って常に空気を読むことを求められて、調子に乗っちゃいけない。でもあの時代のあの瞬間だけ、彼女たちにはそれが許されていたんですよね。

大根:元コギャルたちはみんな言いますよ。「あのころは自分たちを中心に世界が回っていた」って。オレたちそんなこと、思ったことないもん(笑)。

川村:でも大根さんの切り取るドキュメンタリーっぽさって、90年代のティーンエージャーのものでもあり、いまを生きる10代の俳優のものでもあるんです。そうすると、そのふたつの時代は、実はそんなに変わらないんじゃないかなとも思える。

大根:性別も世代も超えて、あらゆる人の心を掴む感覚は、オリジナルを踏襲したかった。

川村:僕、いま高校の同級生と会うと、男よりも女性の生き方や価値観が多様になっていると感じるんですよね。独身なのか、子どもがいるのか、仕事とどう向き合っているか──だからこの映画でもそんな「人生のダイバーシティー」というか、多様な生き方をする全員が肯定されるようなものになれば、とも思ってもいるんです。

(構成/ライター・中村千晶)

AERA 2018年9月10日号

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