牛場潤一さんはBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)の技術を用いて、脳卒中の患者が麻痺した神経経路を見つけるという、工学と医学の橋渡しとなる研究をおこなっている。本書で紹介されている「ないしっぽをふる」という実験がユニークだ。

「これまでは障害のある方と“できないことの豊かさ”を研究してきたので、“できる”を探求することに最初は関心が持てませんでした。ところが共同研究を通してメンバーの研究を知るうちに、できるも面白いなと思うようになったんです。5人の方の研究にあったのは、“できない”を通して私が見いだそうとしてきた“思い通りにならないからこその可能性”と同じものでした」

「できるようになる」とは「自分の輪郭を書き換えること」と、伊藤さんは書く。それは私たちにとって小さな冒険だ。

「“できなかったことができるようになる”のは、魔法のような不思議さを秘めています。普段、私たちは意識が体をコントロールしていると考えていますが、実際には意識は完全に体をコントロールできていません。体が意識の先にいくからこそ、私たちは新しいことができるようになる。意識がお手上げになっている間も、テクノロジーならば介在できます。意識とは一緒に行けないけれど、テクノロジーとならば体は“ゆく”ことができるんです」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2023年2月27日号

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