IT大手DeNAを退社してまでパデルにのめり込んだ竹口仁子さん(28)も、魅力にとりつかれた一人だ。

「大学からの約10年間、体を動かしていなかった。テニス経験もないのに、初めてパデルをやったら、できてしまった。温泉卓球のような気軽さでした」

 パデル歴3年弱だが、今や日本代表の竹口さん。「誰も知らない新スポーツを開拓できる優越感があり、選手としても早く始めたらまだ行けると思った。実は私、スマッシュも強く打てないのに勝てる。壁にボールがあたると跳ね返り方が毎回違うので何が起こるか分からない。テニスでボールがネットに当たって相手コートに落ちてラッキーというのが、何度も起きる感じ。下手でも勝てるから楽しい」

 練習に参加していた自営業の白井重喜さんは55歳だ。時間やお金に余裕ができた35歳になり、人生で初めてテニスや卓球といったスポーツを始めた。それまでは体を動かしたいという気持ちよりも、仕事で疲れた体を休ませたいという気持ちの方が強かった。パデル歴は約1年半。現在は週1で約2時間40分のレッスンを受けている。

「テニスや卓球はサーブ一つで決まってしまうが、パデルは初めてでも球が拾えるし、返せる楽しみがある。遊技から入って競技まで徐々に行ける。そして、偶然の勝ちがあるのが魅力で、誰でも勝ったり負けたりを経験できる。日本に来たばかりのスポーツですから、最年長を目指します。70まではやりたい」

 出身の千葉県にあるパデル施設も利用しているというが、そこでは55歳の参加者が多いという。「偶然にも同級生と何十年ぶりに再会して盛り上がった。男女入り交じって、わいわいできるのも楽しいです」

 協会副会長の玉井さんは、地域をつなぐスポーツとしての役割も重視しており、バーベキューを楽しみながらパデルをやる「肉パデ」が、同施設で一番人気の催しなのだという。

 日本代表でパデル歴3年の瀧田コーチはこう見ている。

「健康志向の人が増える中で、仕事後に一緒に気軽に楽しめるスポーツが求められていると、コーチをしていて感じます。リフレッシュできるんです」

 健康とコミュニティーづくり。今、この二つがキーワードとなって、スポーツのあり方が国際的に大きく変わろうとしている。ここには「楽しみながら体を動かしたい」「運動を通じて人とつながりたい」という需要の高まりに加え、この二つを地球規模で推進するための環境整備が最優先課題だと位置づける国際社会の共通認識がある。

 成人病が生活習慣病と呼ばれるようになって久しいが、世界保健機関(WHO)の統計によると、「身体不活動」が全世界の死亡につながる危険因子(リスクファクター)の第4位となっている。運動不足が多くの重大な病気に直結することを強く警告するものだ。身体活動への関心をいかに高め、運動不足を解消させていくのか。これを各国政府のトップ政策と認識することが「国際的な潮流としてある」と、笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所の吉田智彦主任研究員(41)は説明する。

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