その彼らが、中高年にさしかかった。仕事では、社会での最終的ポジションも見えてくる。肉体も徐々に衰えてくる。
「自分の人生は何だったのかと思いやすい。もう一度恋愛に回帰して自己実現したいのでしょう」(牛窪さん)
恋愛には幻想も付きまとう。相思相愛になれるのは、ひと握り。幻想に翻弄される人もいる。
ある介護職員の男性(49)の理想は、グラビアを飾る溌剌としたアイドルたち。最近は元AKB48の大島優子が好みだ。40歳で、職場の20代女性に迫られて付き合った。「地味な顔立ちで、大島優子とはまるで違った。『好き』と言われて舞い上がった」
親に紹介し同棲したが、ひと月後、彼女は唐突に去っていった。ショックから、現在恋愛休止中。
「次に恋愛するなら、自分の給与が低いから、経済的に自立した20代か30代の女性がいい。自分を立ててくれる優しくキラキラした人に癒やされたい」(男性)
口達者で可愛げがない、太った同世代はまっぴら。自分も太ったが、好きな人ができたら、「走りこんで痩せる」つもり。
早稲田大学教授で恋愛学に詳しい森川友義さんによると、恋愛には力学があるという。
「恋愛の本質は等価交換です。持てる資源の多寡でモテが決まる。90点の人は90点の人を、70点の人は70点の人を選ぶもの。自分の価値を把握できないと、なかなか恋愛できません」
多くの場合、男性に求められる資源は財力だ。ルックスが厳しいほど、財力が必要になる。女性に求められる資源は、ルックスと若さ。「シンデレラ」でも「白雪姫」でも、王子たちは最も美しく若い女性を選んだ。
「男性に財力が求められるのは、熟年も変わりません。一方、熟年男性は、女性に介護力を求める傾向が強まります」(森川さん)
自分より若く健康で、老後をみてくれそうか。恋愛には常に打算も付きまとう。熟年世代の恋愛も、若い頃と同じく、シビアな現実が控えている。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2018年7月30日号より抜粋