恋愛は、遠い青春の日々だけに存在しない。人生の折り返し地点に差し掛かっても、黄昏を迎えたと思っても、ある日突然、落ちるものだ。経験を積んだ大人だから得られる充足、そして年を経てなお、逃れられない打算と幻想──。大人の男女の恋愛事情に迫った。
* * *
大手企業管理職のアキコさんは、40歳を過ぎ、人生に疑問を持った。結婚しておらず、子どもも望めそうもない。自分は社会に何を残せるか。その頃、彼に食事に誘われた。
「私が誘いに乗るか賭けているのかと疑いました」(アキコさん)
相手は一回り以上年下、長身のイケメン。賭けか、興味や好意があるのか考えあぐね、気づけば「自分から行っていた」。
付き合って7年。彼は社内外で活躍するアキコさんに嫉妬しない。応援し、悩みには論理的な助言をくれる。なぜ、嫉妬しないか尋ねたことがある。
「『立場が違いすぎる』と。私は管理職で、彼はこれからキャリアを築く人。成長して私から得るものがなくなれば、終わるかなとも思うんです。でも、『その時はもう一段上に行くんでしょ』と。プレッシャーですよね」
笑うアキコさんは幸せそうだ。
サービス業のコウジさん(54)の場合も同様だ。遊びに来た彼女に、部屋の散らかり具合を咎められ、「ごめんごめん」と平謝りした。相手が元妻なら、「うるせえ」と返していたところだ。10年前、同い年の元妻と、元妻の不倫が原因で別れた。以来、交際相手は年下ばかり。いまの彼女も二回り近く下だ。
「意地を張らず、自分が折れます。年下だから言い合わないし、怒らないのかも」(コウジさん)
素直にもなった。気恥ずかしかった手つなぎも、「いいもんだな」と思うようになった。
熟年世代の恋愛について、世代・トレンド評論家の牛窪恵さんはこう分析する。
「いま活発に動いているのは、いわゆるバブル世代です。新人類世代(54~59歳)の青春期にヒットした『男女7人夏物語』は、結婚を前提にしないセックスを描いた記念碑的作品。この世代には、恋愛の開放感が強く根付いています。続く新生バブル世代(48~53歳)の青春期はトレンディードラマ全盛期。男性は車がないとモテず、女性は男にモテようと着飾る、恋愛至上主義を生きた世代です」