●「稼げば勝ち」という考えが排外的な差別意識を生む

 精神科医の香山リカさんは、事件は、今の社会を覆う排外的な差別意識が突出したものだと指摘する。

「経済至上主義や成果主義の中、稼げば勝ち、利益を上げない人は価値がないという考えが世界の一つの『原則』になっています。そうした中、自分と異なるものへの想像力がなくなり、異質なものは排除してもいい、自分の考えは世間の支持を得られるのではないかと考えたのではないでしょうか」

 日本障害者協議会(東京都新宿区)の代表、藤井克徳(かつのり)さん(68)は、事件後の対応や関連する動きから、障害者が置かれている立場が浮き彫りになったと話す。

「まずは、警察による犠牲者の匿名発表がありました」

 今回、神奈川県警は犠牲者全員を匿名で発表した。通常、殺人事件では警察は被害者を実名で発表するが、同県警は匿名にした理由について「遺族の強い要望」としている。

 実際、家族に知的障害者がいることを知られたくないという遺族もいた。しかしそのため、犠牲者は匿名のまま社会から忘れられ、彼らの人生はほとんど振り返られることはなく、事件を正当化する被告の供述だけが大きく報じられている。藤井さんは言う。

「隠さざるを得なかったのは、障害者への偏見という社会の本質的な問題が潜んでいるからとみるべきです」

 次に藤井さんが挙げるのが、事件後も利用者は長く同じ敷地内で暮らしていたことだ。最後まで残った入所者39人が芹が谷園舎に移ったのは、17年4月。約9カ月もかかったのは、障害者の人権や感性を理解していると思えないデリカシーを欠いた事態と指摘する。

「心のバランスをとるためにも、少しでも早く凄惨な現場から遠ざかるべきでした」

 最後に、大規模入所施設の問題を挙げる。津久井やまゆり園のような障害者を対象とした入所施設は、全国に約3千カ所。施設での虐待や身体拘束は後を絶たず、地域社会から遠隔地にあるものも少なくない。施設以外に安心して預ける場がないため、消去法で大規模施設に入らざるを得ない現状があるという。藤井さんは厳しく批判する。

「やまゆり園の事件の後、厚生労働省が出した対策は、措置入院制度の見直しと施設の防犯対策の徹底のみ。あまりにも対症療法的なものにとどまっている。障害者が置かれた状況も環境も、2年前と変わっていない」

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