●事件の背景に何があったか総括も検証もされていない
事件が起きる直前の16年4月には「障害者差別解消法」が施行された。第1条では障害の有無に関係なく「相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現を目指すとしている。法の精神には大半の人が賛同するが、多くの人に障害者に対する差別感情は根強く残り、「多様性」や「共生」といった言葉だけが躍る。
二度と悲劇を繰り返さないためにどうすればいいか。私たち社会は、障害者とどう向き合うべきなのか。
冒頭で紹介した大月さんは、仕事の悩みや不満を抱える職員を支える相談支援体制の整備が必要と話す。
「仕事の葛藤や不安を抱えている職員に専門的なカウンセリングを通して心の安定を図り、不適格であれば、別の仕事を斡旋することなどができればと思います」
次男(47)がやまゆり園のグループホームに入所している杉山昌明(まさあき)さん(78)は、大切なのは知的障害者に対する理解をもっと広げることだと話した。
「たとえば、電車内で障害者が大声を上げたり、走り回ったりしていると、乗客の方は怖がります。それは障害者のことを知らないからです。多くの人が障害者のことを知れば理解が進み、十分な支援があれば障害者が地域で普通に生活できるようになるのではないかと思います」
前出の藤井さんは、「共生」という言葉を進化させた「インクルージョン」が重要と説く。障害者も健常者も、ともに生き、ともに支えあう社会を意味する言葉だ。
「インクルージョンの実現のためには、今回の事件の背景に何があったかをあらゆる角度から総括し検証すること。事件から2年たっても国も社会も真剣に行っていない。総括も検証もないところに、社会の発展はありません」
ナイフを向けられたのは、私たち社会、そして私たち一人ひとりでもあるのだ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2018年7月16日号
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