※写真はイメージです。本文とは関係ありません(Andre2013 / iStock / Getty Images Plus)
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 2021年にデビューした朝比奈秋さんの二作目となる『植物少女』が、第36回三島由紀夫賞にノミネートされました。本作は、2022年秋季号の「小説トリッパー」掲載時より、各紙誌で話題となりました。その際に、SNSで作品を高く評価してくださった、作家の町田そのこさんに「一冊の本」2023年2月号にご寄稿いいただいた書評を、特別に掲載します。「生きるとは何か」ということを改めて見つめ直す作品です。

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■繋がりゆくもの

 本作『植物少女』を読んでいる間じゅう、亡き祖母を思い出していた。

 祖母は認知症とパーキンソン病を併発しており、その進行は俗に言われる“坂道を転がり落ちる”ようではなく、“落とし穴にすぽんと落ちる”ようであった。言葉を用いてのコミュニケーションはあっという間にできなくなり、次いで表情やしぐさから何かを察するということも難しくなった。祖母が病であることを受け入れられたころにはもう、ベッドの上で無表情に虚空を見つめ、奇妙に体をこわばらせていたように思う。

 声をかけても身じろぎしない、ちらりとも微笑まない祖母を前に私が抱いた感情は絶望に似た諦めだった。もう、二度と通じ合うことはできない。私の言葉たちは祖母に届くことはなく、もしかしたら声をかけることは私の自己満足に過ぎない行為でしかないかもしれない、そんな風にも思った。

 そんなことない。ちゃんと分かってくれてる、伝わってるよ。そんな風に言われたけれど、それならそれで祖母は不幸じゃないかと憤った。意志はあるのに何もできないなんて苦痛じゃないか。祖母の日々はただただ苦しみに耐えているだけじゃないか。そんなの、可哀相なんてもんじゃない。悪夢だ。

 苦しみのただなかにいる祖母にどう接していいのか分からないまま日々を重ねた。そうこうしているうちにコロナ禍にみまわれ、会うこともできなくなり、ようやっと会えたのは亡くなってからのことだった。

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