「歌仙のなかでも柿本人麿と山辺赤人は、歌聖と称される特別な存在です。とりわけ人麿は神格化され、歌神として崇められるようになっていきます」(出光美術館・笠嶋忠幸さん)

 絵に描かれた人麿の容姿は、平安時代後期に活躍した歌人・藤原兼房が夢の中で出会ったという人麿の姿からとられている。白髪交じりでひげをたくわえ、手には筆と紙を持ち、遠くを見るような視線で思索にふけっている人麿。硯箱が置かれたり、脇息にもたれる姿勢で描かれたりする作品もある。

 こうした人麿の特徴は、三十六歌仙を同時に描いた鈴木其一の「三十六歌仙図」(写真左)でも描かれている。歌仙たちが時代を超えて一堂に会したダイナミックな作品だ。『ウォーリーをさがせ!』さながら、前述した人麿像の「お約束」で探してみれば、きっと見つけられるはず……(正解は文末に)。

 ちなみにこの作品、通常は布が使われる表具の部分まで彩り豊かに描く「描表装」という手法が使われている。トリックアートのような趣向も楽しい。

 平安時代から江戸時代にかけて描かれた歌仙絵の多くには、描かれた歌人の歌などが美しい文字で書き添えられている。本展では歌仙の名を伝える平安古筆「高野切第一種」や「継色紙」のほか、伝 西行の「中務集」(いずれも重要文化財)も見ることができる。

 実は西行も今年が生誕900年。本展では西行がプロの歌人としてデビューするまでを描いた俵屋宗達筆「西行物語絵巻」(第1巻)の全場面も公開している。歌仙たちの世界に遊んでほしい。(ライター・矢内裕子)

※出光美術館提供 三十六歌仙図の人麿は中央やや右下の白い服の男性

AERA 2018年7月9日号