かつて輸血拒否や霊感商法などが社会問題となったいくつかの新宗教団体。その陰には、信者の子ども──特異な境遇に置かれた2世の存在がある。彼らの心の内側に迫った。
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東京都内で訪問介護事業に携わる40代の女性介護福祉士。誠実な人柄で、同僚からの信頼も厚い。
彼女は、輸血医療を拒否する教理を持つことで知られるキリスト教系新宗教団体「エホバの証人」の2世だ。
生まれたのは東北地方の町。生後間もない頃から、熱心な信者である母親の訪問伝道に伴われ、保育園や幼稚園には通わせてもらえなかった。当時の自分を「親の付属品」と表現する。
「目に見えない檻の中に隔離されたような環境。一般社会との接点は、小学校に入るまでなかった」
小学校でも、苦難が待ち受けていた。
「同級生の家に布教に行くと、翌日、学校で『昨日何しに来たの?』とからかわれた」
一方で「教団の中は、ある程度居心地がよくて温室のよう。喧嘩もほぼないし、孤独ではなかった」と懐かしむ。
最も嫌だったことをこう打ち明けた。
「10代になってからも、親に反抗すると下着をおろして鞭で打たれた。逃げようとすると、馬乗りになって打たれる。屈辱的だった」
彼女が受けた「懲らしめ」の道具は、革のベルトや木製ハンガーだった。エホバの証人の家庭では、靴ベラや布団たたき、竹製の定規などが鞭として使われたという。
中学校卒業後は通信制高校に入り、開拓(伝道)奉仕する道を選んだ。教団の出版物などで繰り返し「進学よりも開拓することが重要」と教え込まれていたためだ。通信制高校への進学を「宗教上の理由」と自ら説明した三者面談で、担任はあきれていた。
通信制高校もスクーリングに通えず中退し、彼女の学歴は中卒のままだ。
その後、成人を迎える頃になって、教団内での地位が高い男性とのトラブルから組織の男尊女卑体制に直面し、脱会する。脱会直後、母親から届いた手紙には「滅びの道を行くの?」と書かれていた。
脱会したものの、自立への第一歩となる仕事探しで困難に直面する。
高等教育を否定してきたエホバの証人には低学歴の2世が多い。パートタイムの仕事に就いて布教活動に専念することが奨励されており、脱会して生計を立てるために働こうと思っても、なかなか就職先が見つからないのだ。
怪しげな教材会社、スナックのホステス、事務職など様々な職を経た後、上京する。「訪問伝道で他人の家を一軒一軒訪ねることに慣れていたので、営業ならできるかもしれない」と、保険の営業に12年従事。その時期に現在の夫と知り合い結婚し、産休と育休の間に介護福祉士資格を取得した。介護職に就いて7年、現在は管理者兼サービス提供責任者という要職に就く。