重要文化財「仙人掌群鶏図襖」伊藤若冲筆/江戸時代 18世紀/大阪・西福寺/水墨画で鶏を描いてきた若冲ならではのデフォルメされた鶏のフォルムがわかる
重要文化財「仙人掌群鶏図襖」伊藤若冲筆/江戸時代 18世紀/大阪・西福寺/水墨画で鶏を描いてきた若冲ならではのデフォルメされた鶏のフォルムがわかる
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「雪梅雄鶏図」伊藤若冲筆/江戸時代 18世紀/京都・両足院
「雪梅雄鶏図」伊藤若冲筆/江戸時代 18世紀/京都・両足院
「夕顔蒔絵大鼓胴」江戸時代17世紀/東京国立博物館/能や歌舞伎の囃子に使う大鼓の胴。夕顔と扇だけという大胆な簡略化で物語を伝えている
「夕顔蒔絵大鼓胴」江戸時代17世紀/東京国立博物館/能や歌舞伎の囃子に使う大鼓の胴。夕顔と扇だけという大胆な簡略化で物語を伝えている

 日本美術の名作がいかに生まれたのか。それぞれの作品のつながりを可視化した、画期的な展覧会が開催中だ。

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 国宝「普賢菩薩騎象像」(平安時代)もあれば、伊藤若冲の「仙人掌群鶏図襖(さぼてんぐんけいずふすま)」や雪舟等楊の国宝「天橋立図」(室町時代)もある。同じく国宝の「風俗図屏風」と並ぶのは、記念切手としてもおなじみ、菱川師宣の「見返り美人図」(共に江戸時代)だ。

 綺羅星のような国宝・重要文化財を含む、約130点の名作が一堂に会し、12のテーマごとに展示されているのが「名作誕生 つながる日本美術」展。上野・東京国立博物館で5月27日まで開催中だ。

 それぞれが名作である作品を見せる切り口が「つながる」という言葉。いかなる名作であっても、独立して生まれるわけではない。海を越えて渡ってきた作品や技法を知り、古典を学びながらも新しい美意識を持つことで、日本美術はつねに変革されてきた。

 鑑真ゆかりの木彫がどのように仏教美術に受け継がれたか。あるいは中国絵画と雪舟、古典文学と工芸品、そして近代絵画に至る「つながり」を、関連する作品を通して具体的に見せることで、美術に潜むダイナミズムを解き明かそうという、野心的な試みなのだ。

 多くの人が足を止める展示は「若冲と模倣」。若冲は中国や朝鮮の絵画を模写し学ぶ一方で、実物写生に努め、動植物を細密に描いた。ここでは若冲が手本とした陳伯冲や文正が描いた「鶴」がどのように変容したのかが、作品を通して示される。「鶴」という同じモチーフであっても、時代と絵師の個性によって、異なる鶴の姿が現れるのだ。

 圧巻は金を背景に描かれた、若冲の「仙人掌群鶏図襖」。生涯にわたって鶏を描き続けた若冲が、晩年に描いた作品だ。

 この作品には、若冲自身の変化と模倣がみてとれる。たとえば初期の「雪梅雄鶏図」は、東本願寺に伝来した「雪中遊禽図」の背景を切り詰め、さらに自身が描いた雄鶏図と同じ様子の雄鶏を描いたもの。この鶏は「仙人掌群鶏図襖」の右端(第一面)に描かれた鶏とそっくりだ。さらに背景のサボテンと岩の形も、梅の枝ぶりとよく似ており、原型となった作品と言えるだろう。

 若冲の水墨画の例としてあわせて展示されている「鶏図押絵貼屏風」は、襖絵のあとに描かれたものだが、やはりそれまでに描かれた鶏図と共通した特徴がある。

『伊勢物語』や『源氏物語』などの古典文学も、特定の場面やモチーフが工芸品に用いられてきた。「夕顔蒔絵大鼓胴(ゆうがおまきえおおかわのどう)」には、『源氏物語』の「夕顔」のエピソードから、扇、夕顔が描かれている。この二つだけで「夕顔」を連想できるほど、物語と意匠は長く愛されてきたのだ。

 名作が生まれる背景には、作品を愛したそれぞれの時代の人々がいる。作り手ばかりではない、名作を伝えてきた人々の存在も実感できる展覧会だ。(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年5月28日号