「二人が触れるのはその1度だけなので見つけた人はラッキーです。躍動的な動きだけではなく、キャラクターの仕草で作品の世界観を細部まで作り上げるのも私たちの仕事です」(池田さん)
メンバーは作品ごとに選ばれる。今回は20カ国以上のパフォーマーと、照明や音声など技術スタッフから専属コックまで総勢125人の大所帯だ。創設30周年記念作品となる本作は2014年4月初演で、これまでカナダと米国の2カ国で公演した。日本ツアー期間は1年以上に及ぶ。
「これまで公演回数は千回以上ですが、日本では初めて。アメイジングです!」
柔らかな口調ながら熱を込めて語るのは、演出・脚本を手掛けたミシェル・ラプリーズさんだ。「シルク」への参加は00年からだが、出会いは約30年前にまで遡る。
父親とカナダのケベックシティーを訪れていたラプリーズさんは、どこからか流れてくるエキゾチックな音楽を耳にした。誘(いざな)われるまま音のほうへ歩いていくと、「シルク」の公演会場だった。
こっそり中を覗いたラプリーズ少年の目に、色とりどりの衣装をまとい、音楽に合わせて動く人々の姿が飛び込んできた。気付いたら涙が溢れ出ていた。
「まるで美しい感情が渦巻いているようでした。『今夜このショーを見たい』と父に泣きながら言ったんです」
そんな原体験をもつラプリーズさんが制作した「キュリオス」は、“curious(好奇心の強い)”と“curios(骨董品)”を含意する造語だ。「好奇心の飾り棚」を意味するサブタイトルもつく。産業革命の時代と近未来が混じり合う舞台上では、主人公シーカーが機械の世界に足を踏み入れる。キーワードは「11時11分」だ。1が四つ並ぶこの時刻を欧米では特別な時ととらえ、願い事をする人が多いという。そんな幸福な1分間にシーカーが集めた骨董品に命が吹き込まれ、めくるめく旅が始まる。
「私が大事にしていることは、ショーの後に余韻が残り続けること」とラプリーズさんは話す。たとえば、積み重ねられる椅子の上でバランスを取る「バランシング・オン・チェア」というパフォーマンス。手に汗握る思いで見守った観客は、帰宅後に椅子を見た時、何を感じるか。
「それはもう、それまでのただの座るためだけの椅子には思えないでしょう。日常に変化が訪れる。時計の針が11時11分になった時も同じです。キュリオスの世界観や感動した瞬間を日々の生活の中でも思い出してほしい」(ラプリーズさん)
観賞のコツはありますか?
「日本人は静かで、礼儀正しいことは知っていますが」とラプリーズさんは前置きしつつ、「面白い時は笑ったり、拍手したりと、感情を表現して見てもらえたらうれしい。これは“あなたのショー”ですから」
(編集部・小野ヒデコ)
※AERA 2018年4月30日-5月7日合併号