3月29日、東京都が公表した「耐震診断結果」が大きな波紋を広げている。1981年5月以前の「旧耐震基準」で建てられた建築物の約3割が、震度6強以上で倒壊や崩壊の危険性が「高い」「ある」と診断されたのだ。
首都直下地震が懸念されるなか、早急な対策が求められるが、その対策のペースは遅い。改築や耐震補強工事にすぐ動き出せる施設は限定的で、なかなか進まないのが実情だ。
要因の一つは、土地や建物の複雑な権利関係がある。
高砂店など2店舗で危険性が「ある」と診断されたイトーヨーカ堂。親会社のセブン&アイ・ホールディングスによれば、耐震改修は「継続して検討中」だが、着工時期は「未定」という。
「店舗が入るビルの家主などさまざまな関係者がいて、調整に時間がかかっています」(同社)
国の定めるがん診療連携拠点病院の一つとして知られる「東邦大学医療センター大森病院」(東京都大田区)の耐震強度不足が判明したのは14年。1号館のほか、2号館の強度も不足していた。同院ではまず、病床機能が集中している2号館の耐震化を15年から1年間かけて実施。一方で、1号館は「建て替え」を含め検討している。だが、1号館は外来が中心で、病院全体で1日2300人近い外来患者が訪れる。そうした患者を期間中、どう受け入れていくのか対策が大変難しいというのだ。
「病院としてもできるだけ早くと考えています」(担当者)
東京大学生産技術研究所の中埜良昭教授(耐震工学)は言う。
「先行投資による耐震化対策は、利用者に安心感を与え、それが建物の『価値』にもなる。いつ起きてもおかしくない首都直下地震に備えるためにも、耐震化は命を守る投資だという意識に切り替えなければいけない」
犠牲から学び、災害に備える。安心して住める街づくりは、最優先の課題だ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2018年4月30日-5月7日合併号より抜粋