企画書には「これをいつまでに」と締め切りを設ける。そして、やりすぎない自分を評価する。無理をすると、何事も継続できなくなるからだ。
「それなのに多くの指導者が選手に無理をさせてしまう」
と荒木さん。勝つことにこだわり過ぎるからだ。
「でも、そういう人は負ける。結果ばかり気にして、強化するための道筋を熟慮しないから。その点では、スポーツもビジネスも似ているかもしれません」
荒木さんによると、米国五輪委員会(USOC)はメダルの数を数えたりしないし、大会前にその獲得数を予想することもしない。「メダル獲得をモチベーションにするのは健康的ではないと理解しているから」だ。
その意味で、平昌五輪では女子フィギュアスケートの宮原知子(19)が、理想的なアスリートの姿を見せてくれたという。
「けがから復帰したばかりという状況で自分と向き合い、あの時点で最高のパフォーマンスを見せたと思う。自分を最後までコントロールできていた」
メダル偏重。勝利至上主義。結果ばかりを気にすることで、選手のやる気を削がないようにしなければならない。
スポーツ関連の人材紹介事業を行うRIGHT STUFF取締役の河島徳基さんは、
「組織や指導者が変わるには、仕組みを変えるべきだ」
と訴える。
「日本は小中高とすべての育成年代に、負けたら終わりというトーナメント方式の全国大会がある。多くの大会にはテレビ中継が入り、注目度が高い。これでは指導者は勝ちを目指したくなる。部活動はブラックだと言われるが、時間を短縮しただけでは解決しない。小学生から全国を目指すいまのあり方が望ましいのかどうか再考してほしい」
そう話す河島さんによれば、米国でも近年、高校生のスポーツビジネスが盛んだ。
18歳以下でひじの手術を受ける球児が増え、かの国も問題視しているという。意欲を持ち続けられる環境をいかに用意するか。
関係者は新たな企画書で、選手の線条体を働かせてほしい。(ライター・島沢優子)
※AERA 2018年3月26日号より抜粋