しかし、その和魂洋才のオプティミズムを吹き飛ばすほどの悲劇をもたらしたのが、東京電力福島第一原発の事故だった。戦後の負の側面というより、日本近代化の負の側面が現れたと、姜さんは言う。
原発事故から約2週間後、姜さんは取材でテレビクルーと一緒に福島に入った。その後も何度か訪れている。歩きながら感じたのは、近代国家というものの酷薄さだった。
「背後に国家の影を見ないわけにはいきませんでした。しかもそこに生きた人間が見えず、無機的な権限や法律、官庁の抽象的な相貌(そうぼう)だけが見えてきました」
人が住まなくなり、ゴーストタウンと化した町、自分たちは国に捨てられた「棄民」だと語った酪農家。破壊された原発構内に入ると、広大な敷地に膨大な数のタンクがSF映画の世界のように林立していた。
「こういう事態は突然起こったのではありません。やはり150年にわたる、一つの近代日本の積み上げられてきた歴史のある局面、影の部分が現れたのだと思います」(姜さん)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2018年3月12日号より