最愛の人を失ったトランスジェンダーの女性が、偏見に苦しみながらも自分らしく歩んでいく──。演じたのは、自身もトランスジェンダーであるダニエラ・ヴェガだ。
自宅のベッドで突然、愛する人の意識が薄れ、亡くなってしまったら、どれほどショックを受けるだろうか。映画「ナチュラルウーマン」の主人公マリーナは愛する人を悼む間もなく、警察や病院にあらぬ嫌疑をかけられ、親族に罵られる。理由は一つ。彼女が年若いトランスジェンダーであるからだ。
映画は、チリのサンティアゴを舞台に、最愛の人を失ったマイノリティーのマリーナが、親族や警察、病院など様々な人々から差別や偏見に遭いながらも、自分らしく歩んでいく姿を描く。
マリーナを演じたのは、自身もトランスジェンダーであるダニエラ・ヴェガ(28)だ。彼女自身が男性であることに違和感を持ったのは、5歳の頃だった。13歳で両親にカミングアウトし、14~17歳にかけて性別を変えた。
「幸いなことに両親は私を受け入れ大事にしてくれました。中学は女の子として通い、もちろんいじめも受けたけど、私は私らしく生きることができました」
子どもの頃から歌の才能を認められ、芸術に興味があった。高校卒業後、ヘアスタイリストとして働きながら、舞台芸術のメイクアップアーティストとしても活動。女優業をスタートさせることになったのは、そのメイクの仕事で舞台に携わった時、演出家に「こうしたら」と意見したことがきっかけだった。
「『君も芝居できるんじゃない』って演出家に言われ、1週間後には舞台に立っていたの。20歳の時よ。今もそのカンパニーに所属しています」