本作は友人を介してセバスティアン・レリオ監督を紹介されたが、ヴェガは「監督が映画を撮ろうとしていることも知らなかった」と振り返る。最初は出演者としてではなく、あくまでトランスジェンダーとしての相談役。彼女自身の体験などをごく自然に話す機会を重ねていった。期間は1年半に及んだという。すると、「ある日、脚本が届いたんです。当時ドイツに住んでいた監督にその意味を問いただしたら、『読んだらわかるだろ。主役をやってほしいんだ』って。『バカじゃないの!』って答えたんですが、うれしくて3日間飲み続けちゃいました(笑)」

 本作はプロデューサーも共演俳優もチリではベテラン揃いの「最高のチーム」(ヴェガ)だけに足を引っ張ることがあってはならないと、「私にできる最高の努力をしよう」と決意。まずはヨガにランニングと「中心がブレないように」フィジカル面を鍛えつつ、「共演陣が持っている技術をスポンジのように吸収していきました」と語る。

 そんな努力は映画に結実。彼の元妻や弟ら周囲からの差別や偏見、屈辱をパンチングボールにぶつけ、向かい風にも怯まない。踏まれても立ち上がる雑草のような彼女を自然と応援してしまう。

「映画を見た皆さんに『共感の限界』を考えてもらいたいというのが、すべての出演者、スタッフの共通の気持ちでした。つまり、見る人がいま誰の立場に共感するのか。そして、そこから共感する先を広げていくことができるのか、考えてもらえたらうれしいです」

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2018年3月5日号

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