平昌五輪にむけて連覇への準備は順調だった。だが、2017年11月のNHK杯公式練習でまさかの負傷。氷に乗れない間は「スケートできない間にできること」を思いつく限りやった。解剖学の本や論文を読んでジャンプのフォームを頭で理解し、映像でイメージトレーニング。スポーツ心理学を改めて学び、ジャンプ構成の戦略を練った。試合に出続けていたらできなかった勉強に、アグレッシブに取り組んだ。
1月中旬の氷上練習再開は、1カ月後の2月16日にピークがくるよう逆算した結果。2月11日に韓国入りし、少しずつギアを上げて、15日にトーループ、サルコー、ループの3種類の4回転を成功させた。
「今回は作戦が大事。ジャンプ構成は調子をみながら決めます」
いままでの羽生なら、「自分の限界に挑みたい」と闘志をむき出しにするのが普通。今回はいつになく落ち着いた表情で「作戦」という言葉を何度も口にした。約4カ月ぶりの実戦となる平昌五輪SPの朝。4回転はトーループとサルコーの2種類に決めた。SPでは何よりも、確実性が求められるからだ。
もっとも重要だったのは、本番ですべてを成功させるメンタルだ。羽生はこれまでを振り返った。総合で330.43点をマークした15年GPファイナル、フリーの世界最高を更新した17年世界選手権では、「ファンに感謝し、応援を受け止め、気持ちを一体化する」という境地だった。だから今回も、五輪の高揚感を味わうよりファンからの応援に気持ちを集中させよう。
結果は、4回転サルコー、トーループを成功させてパーフェクト。首位に立った。
「オリンピックを知っているというのは強み。ソチのショートでノーミスしていたからこそ、そこにすがりたくなる気持ちもありました。でも前回のオリンピックのことは考えませんでした。今回はケガで滑れなかったことで、非常にスケートが楽しくて、応援を如実に感じられる試合だったので。だから皆さんからパワーをもらうことで落ちついて滑ることができました」
フリーに向けては、頭をフル回転させて戦略を練った。