23歳の羽生結弦(はにゅうゆづる)が、2度目の勝利を手にしたその夜。韓国・江陵アイスアリーナから車で約1時間の平昌オリンピックプラザでメダル授与式が行われた。
首から下げた金メダルはヒヤリと冷たい。氷点下5度の空気を熱い胸に吸い込み、「君が代」を口ずさむ。ソチ五輪の国旗掲揚の間はひとときも日の丸から目を離さなかったが、今回は違う。途中で目をつぶり、穏やかな笑みをたたえた。
羽生は言う。
「やはり4年分、積んできたものがあります。ソチのがむしゃらさとは違って、今回は本当に取らないとという使命感がありました。19歳の時はまだ時間があると思っていました。でも、今回はもう時間がない、あと何回あるか分からないという緊張感があった。逆にオリンピックを感じられたかなと思います」
そして演技を振り返る。
「もう演技が終わった瞬間のことを覚えていないけれど、最後にガッツポーズしていたし、氷にありがとうって言っていたし、泣いていたから。だから満足してたと思います。それがソチオリンピックと一番違うところかなと思います」
19歳でがむしゃらにつかんだ金と、23歳で使命感を背負って取りにいった金。そこには2人の羽生結弦がいた。
4年前は「挑戦者」だった。世界選手権は2011年からカナダのパトリック・チャン(27)が3連覇。12年銅メダルの羽生は、当初は「メダル候補の一人」にすぎなかった。しかし、少年のころから「オリンピックチャンピオンになりたい」と口にしてきた羽生は、チャンスを逃す気はなかった。
当時、こう話している。
「王者に勝てば、僕が王者。パトリックにどうやったら勝てるかだけを考えています」
ソチ五輪シーズンのチャンとの初対決、スケートカナダでは、王者の演技を意識しすぎて2位。2戦目のフランス杯では自分に集中しようとしたが、チャンの演技からも吸収しようという気持ちのブレがあって再び2位。
「パトリックからは十分に学んだ。あとは自分に集中するだけ」
と言って臨んだ12月のグランプリ(GP)ファイナルでやっと、チャンを破って優勝した。