埋め立てに向け、辺野古の海に次々と護岸が造られる中、最も敏感に「あきらめムード」に接してきたのは名護市民かもしれない。そこに政府・与党幹部が大挙して入り、振興策や交付金といった「アメ」をちらつかせたのが今回の市長選の内実だ。

●基地で深まる沖縄分断

「20年、50年先の安全安心を訴えてきたが、結局は目の前の経済優先という形で敗れた」

 稲嶺氏の敗戦の弁が、今後の展開を暗示している。

 市長選翌日の5日。渡具知氏が「容認」を明言していない現段階で、政府は在日米軍再編への協力に応じて自治体に交付する「再編交付金」の名護市への支給を検討し始めた。こうした「アメとムチ」政策への回帰は、沖縄に対する「本土」の偏見や無理解を一層助長しかねない。

 普天間飛行場所属の大型輸送ヘリの窓が、隣接する普天間第二小学校に落下した昨年12月の事故後。東京在住を名乗る男性から小学校に「沖縄は基地のおかげで暮らせている。落下物で子どもに何かあっても、お金があるからいいじゃないか」との電話が入った。

 同型ヘリの部品が園舎の屋根に落下した被害を訴えている近隣の緑ケ丘保育園父母会の知念有希子副会長(39)は、市長選の結果に顔を曇らせる。

「辺野古の基地完成後に事故が起きたとき、『お前たちはお金をもらっているんだから、それぐらい我慢しろ』と絶対に言われると思います。基地があることで県民が分断され、県外の人との間にも亀裂が深まるのは悲しい」

「地元の反対」という大義を失った翁長知事は窮地に追い込まれた。しかし、と前出の公明党関係者は言う。

「今回は人海戦術が効いた面もありますが、無党派層が格段に厚い知事選となると、こうはいきません」

 国は、夏には辺野古に土砂を搬入する見通しだが、この公明党関係者はこう強調した。

「強引なイメージはまずい。アクセルを踏むのは知事選後でいい」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年2月19日号

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