小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
暴力や差別につながる表現を「お笑い」だから許容すべきだとする意見は的外れ (c)朝日新聞社
暴力や差別につながる表現を「お笑い」だから許容すべきだとする意見は的外れ (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【“禊”で蹴りをくらわせられたベッキー】

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 顔を黒く塗って黒人に扮するブラックフェイスと、ベッキーさんに“不倫の禊(みそぎ)”として蹴りをくらわせる企画で非難を浴びた「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 大晦日年越しSP(スペシャル)!」。ブラックフェイスの件は、NYタイムズやBBCなど複数の海外メディアでも批判されました。

 しかし放送局は年明けに完全版で再びブラックフェイスを放送。ベッキーさんは「蹴られたのは有り難かった」とコメントしました。「放送局としては反応しない」「蹴られた本人が感謝しており問題ない」という形で批判に応えたのでしょうか。

 制作者や出演者に悪意はないとしても、過酷な人種差別の歴史を背景に、極めて侮蔑的かつ差別的な表現であるという評価が定着しているブラックフェイスをあえて放送した判断は理解に苦しみます。

「差別だと騒ぐほうが黒人差別では?」という意見もありますが、ブラックフェイスが差別的な表現であることについては、1960年代のアメリカの公民権運動を経てすでに答えが出ています。そうした経緯や背景に無頓着な態度や、差別されたと感じる人への想像力を欠いていることが批判されているのです。「自分は差別と思わないもん!」は、数百万もの人が視聴する番組でブラックフェイスという表現を選んだことを正当化する理由にはなりません。

 また「蹴られて感謝しているのだからOK」「お笑いの“お約束”をわかっていない」という意見も的外れです。たとえ出演者が全員了解済みでも、女性を大勢で取り囲み、既婚者と恋愛した罰として暴力を受け入れるよう強いる状況を娯楽にすることが批判されているのです。女性への暴力をやめようという世界的な流れの中で、これが笑えるコンテンツであると判断した感覚を疑います。

 テレビは30年前で時間が止まっているのか、そこに戻ろうとしているのか。最後の昭和はここにあるのかも。

AERA 2018年1月22日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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