姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中「トランプ大統領の決定は日本に甚大な影響を及ぼすかもしれない」(※写真はイメージ)
政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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トランプ大統領の「エルサレムがイスラエルの首都」宣言に対し、英仏などの西側諸国だけでなく中ロからも非難の声が上がっています。しかし、今のところ日本からは何の声明も発表されていません。
そもそも「首都イスラエル」問題は、2016年の大統領選でのトランプ氏の選挙公約でした。彼を支持したキリスト教右派や親イスラエル勢力の意向を受け入れる形となったわけです。ロシア疑惑で揺れるトランプ政権にとって大きなリスクを背負わずしてインパクトを与えられる、しかも手っ取り早く大統領の決断でできるものが今回の宣言だったのでしょう。
この宣言の余波として考えられるのはテロの拡散です。来年2月開催の平昌オリンピックはもちろんのこと、一番憂慮されるのは2020年に迫る東京オリンピックです。日本国民は中東の問題を対岸の火事のように見ているかもしれませんが、トランプ大統領と安倍首相との蜜月が世界中に拡散されており、アラブ・イスラム諸国の友好国であるという日本のイメージは、米国の忠実なジュニアパートナー・日本というイメージに取って代わられ、その反動から日本にも批判の矛先が向けられかねません。
日本には北朝鮮の問題があるからエルサレムに関するトランプ大統領の決定に嘴(くちばし)をはさんではならないという、それこそ米国への忖度を説く論調が根強いようです。しかし、今回のトランプ大統領の決定によってテロが拡散しかねないことや、北朝鮮危機に米国が十分な戦略的資源や人員を投入できなくなる可能性を考えると、日本は安倍首相直々、憂慮や懸念、さらには再考や反対の明確な意思表示をすべきです。今回のトランプ大統領の決定はゆくゆく日本に大きな余波となって、甚大な影響を及ぼすかもしれません。
※AERA 2017年12月25日号