「あまりにも理不尽で、ひどい。引き金を引いたトランプ氏を許せない」
イスラエル市民の受け止めも複雑だ。トランプ氏の首都承認宣言を歓迎する声は多いが、「宣言で暴力が広がることは誰も望んでいない」(58歳の女性洋服店主)のも確かだからだ。
イスラエルは1967年の第3次中東戦争で東エルサレムを占領して、西エルサレムとともに「不可分の首都」と宣言した。一方、パレスチナ自治政府は東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置づけ、国際社会はエルサレムをイスラエルの首都と認めていない。日本を含め各国は大使館をテルアビブに置く。
トランプ氏の宣言は、エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決めるという、米国を含む国際社会のこれまでの立場を覆すものだ。中東和平に向けた「新たなアプローチ」と主張したが、エルサレムをイスラエルの首都と承認することがどう和平に結びつくのか具体策は一切示していない。
国際社会でも米国の孤立が際立つ。トランプ氏の首都承認宣言について、イスラエルのネタニヤフ首相だけが「和平への重要な一歩」と歓迎したが、国連安全保障理事会の緊急会合では、15理事国のうち米国を除く14理事国から批判や懸念が相次いだ。アラブ連盟やイスラム協力機構も緊急会合で、宣言を強く非難する声明を出した。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は「米国の決定は世界の平和を脅かす犯罪であり、国際法違反だ。中東和平において米国はもはや公平な仲介者ではない」と非難し、米政府高官との面会も拒否する構えだ。
米国を含む国際社会は、イスラエルと将来の独立したパレスチナの「2国家共存」による紛争解決をめざしてきたが、交渉は頓挫したまま再開のめどが立っていない。
イスラエル寄りの姿勢を決定的にしたトランプ氏の宣言は和平プロセスに激震を走らせ、混迷をさらに深めさせることになった。(朝日新聞エルサレム支局長・渡辺丘)
※AERA 2017年12月25日号