多くのフラリーマンは家から閉め出されているわけではない。自分の意思でフラフラすることを選んでいる(立体イラスト・kucci/撮影・今村拓馬)
多くのフラリーマンは家から閉め出されているわけではない。自分の意思でフラフラすることを選んでいる(立体イラスト・kucci/撮影・今村拓馬)
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 家庭を持っていても家にまっすぐ帰らずフラフラとしているサラリーマン、通称「フラリーマン」。政府が推進する「働き方改革」で残業を抑制する企業は増えたのに、なぜ彼らは家に帰らないのだろうか。

 平日の午後8時。大阪市のビジネス街の一角から足早にネオン街へと向かう、スーツ姿の男性がいた。会社員の西山泰広さん(41)。水曜か木曜には3、4軒飲み屋をはしごしてから帰宅するのが習慣だ。足には履き慣れたランニングシューズ。効率的な飲み屋巡りには欠かせない。

 会社では、商品企画部門でリーダー的な存在の働き盛り。5歳の息子がおり、毎朝5時起きで家中に掃除機をかけてから出社する「カジメン」でもある。

 会社を出た西山さんがまず向かったのは、会社にほど近い牛丼チェーン。頼むのは380円の牛丼並盛だ。腹のすき具合に応じて卵も追加する。

「まっすぐ飲み屋に向かうと、小遣いが早々に底を突いてしまうと気づいてから、飲みに行く前に必ず立ち寄ることにしているんですよ」

 西山さんの小遣いは、月2万5千〜3万円。金額は、その月の出費状況など、妻のさじ加減で決まる。数年前、自営業から今の会社に転職してから、妻にキャッシュカードを握られるようになった。

「5千円少ない月は、かなり痛いですね。1回、飲みに行けなくなるので……」

 毎回必ず1軒、新しい店を開拓する。ハイボール片手に、他の客やマスターと話したり、一人でじっくり考えにふけったり、本を読んだり。酒場から酒場へとフラフラと歩き回り、街を観察する。

「歩いている間は、頭をからっぽにできる。いいストレス解消になっています」

 飲みに行く日は必ず妻に申告しているので、「怒られたことはない」。家庭に大きな不満があるわけではない。でも、どうしても足がまっすぐ家に向かわない。中間管理職のプレッシャー、少ない小遣い、よき父の顔、一家の大黒柱という責任感──すべてがないまぜになって、自宅直帰しようとする足への重しとなる。

「家庭と仕事ってルーティンですよね。そんな単調な毎日から抜け出せる『フラリ』がないと精神的にきついんです」

(編集部・作田裕史、澤志保、市岡ひかり

AERA 2017年12月4日号より抜粋