経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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日本のメディアはトランプ大統領の訪日のニュースで目一杯でしたが、そもそも日米関係は極めて安定しており、ニュース価値としては低いものです。トランプ大統領が食べたハンバーガー店に行列ができるなどの報道を見ると(ここはおいしいのは確かですが)改めて日本は平和ですね。
日本ではほとんど報道されていませんが、訪日中の11月7日、アメリカの政治動向を予測する上で非常に重要な選挙が行われていました。それはバージニア州知事選挙で、南部を抑え込んだトランプ氏が唯一失ったのがこのバージニア州。ワシントンDCに隣接していることもあり、政治意識が非常に高い地域の一つです。民主党のラルフ・ノーサム候補(現副知事)が共和党のエド・ギレスピー候補(元党全国委員長)を大きくリードしていたのですが、シャーロッツビルの事件もあり、事前調査ではかなり僅差に。しかし終わってみれば9ポイントの大差でノーサム候補が圧勝。ギレスピー候補を支持していたトランプ大統領は、アジア歴訪で応援演説に入っていなかったものの、負けが決まった途端、私の政策を採用しなかった、などとツイートし、敗戦の影響を受けないように必死の防戦をしています。
このところ補選で負け続きだった民主党が牙城を守ったことになります。選挙戦にはオバマ前大統領などもかけつけ、民主党支持層の引き締めに邁進していましたが、もともと昨年の大統領選では得票数は民主党のヒラリー氏のほうが多かったわけで、民主党員が「眠らない」のであれば、十分戦えることを裏付けたと言えます。
民主党は一時漂流しているようでしたが、今回の選挙戦を見ると、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン両氏を軸とした「スーパーリベラル」が相当の力を得ており、イエレンFRB議長の退任も畏友であるウォーレン氏を次期大統領選で応援する布石である、とも言われています。ウォーレン氏はマイノリティーの血を引いていると主張しており、その意味で、今後アメリカは社会主義と見まがうような超リベラルの民主党と、開拓時代の価値観を具現化したような白人保守主義の共和党という二つの大きなうねりが衝突することが予想されます。来年の中間選挙に向けてアメリカの政局からは目が離せません。
※AERA 2017年11月20日号