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寺山修司唯一の長編『あゝ、荒野』が、菅田将暉とヤン・イクチュンで映画化された。身体づくりから始めたという二人が、「細胞分裂」を実感するまでを語り合った。
東京・新宿の片隅でもがきながら孤独を抱えて生きてきた新次と建二。「あゝ、荒野」は、二人がボクシングを通してそれぞれの人生を生き始めるさまを描く、寺山修司の長編小説の映画化だ。共にボクシング初挑戦の菅田将暉とヤン・イクチュンが、そうとは思えない熱量で観る者を圧倒する。
菅田将暉:最初にヤンさんとお会いしたのが撮影の半年くらい前。僕はガリガリでヤンさんはまるまるしていた(笑)。20キロくらい体重差がありました。それぞれトレーニングして本番で会いましょう、となったんですが、ヤンさんは別人でした。体から無駄な肉が落ちて筋肉がついていた。ボクシングの動きも違う。すごく刺激的でした。
ヤン・イクチュン:菅田さんも変わってましたよ。
菅田:お互いが練習しているという状況は油断できないし、緊張感がありました。それぞれの練習内容を周りが撮影して送り合っていたでしょ。「やっべー、ヤンさんすごくできてる」ってプレッシャーでした。
ヤン:菅田さんの新次からは強さや自信が出ていました。
●撮影中は瞳孔を開いて
菅田:新次になるには、ボクシングがうまくないといけないと思ったんです。彼は足を使って相手を脅かすトリックスター。ボクシングスタイルがカウンターベースなので、うまくないと相手の攻撃をかわせないし自分のプレーができない。それに、新次には母親に捨てられた、仲間に裏切られた、という過去がある。たぶん、他の人以上に一人ひとりをきちんと見て感じる力が備わっている。そんな彼ならではのスタイルなんだと思います。新次としてカメラの前に立つ時は、瞳孔を開いて相手をジッと見ていた気がしますね。
ヤン:僕は、建二を演じるにあたっては「このままではいけない」という思いが強かった。最終的に建二は新次だけでなく自分を見いだしてくれた恩人やコーチのもとからも離れていくでしょ。同じジムにい続けてしまったら3人を失ってしまうと恐れたんだと思う。だから、その思いを大切に演じました。