菅田:映画はある種、虚像じゃないですか。僕らはお芝居をしているわけですが、この映画では、自分がいまこうして生きているよりもずっと、生きている感じがした。きっと僕は、それを大事にしていたんです。ただ命をつなぐためにご飯を食べて生きるのではなく、自分が欲しいもの、欲とか人との繋がりとかいうものを大事にして生きる。そんな中で出会いがあり、失うものもある。この映画はそこがドラマチックだと思います。

●苦痛から得られる快感

ヤン:それにしても、ものすごく汗をかきましたよ(笑)。

菅田:一度、危ない瞬間がありましたよね。パンチがもろにヤンさんの顔面に入った。なのにヤンさんは変わらずで、さすがだなーって思いました(笑)。

ヤン:殴られた快感があったんです。みなさん笑ってますけど、それってすごく大事な感情。失恋すると心が痛みますよね。そういう時に韓国の男性は、よく壁をバシッてたたくんです。

菅田:日本も変わりませんよ。

ヤン:もどかしい気持ちになっているとき、自分で痛みを感じることで心の痛みがちょっと抑えられたり、軽減されたりするという効果がある。苦痛から得られる快感というのも、大切な感情なのかなと思います。

菅田:本当にパンチを当てるというのは、大きな意味があります。それができるのは信頼関係があるから。どれだけやっても大丈夫というくらい相手がトレーニングを積んだと知っているからこそできる。もしかしたらヘンな愛情みたいなものがあったのかもしれないけど(笑)。

ヤン:そうだね(笑)。男同士って「力を込めて、じゃあ殴るよ」って殴るじゃない? 殴られた側は「痛くない痛くない」って言う。あれは一つの快感。

菅田:確かに(笑)。僕は体を鍛えるとか人を思い切り殴るというのは今回が初めて。何か大事なものを知った感じがします。殴る人の痛みも力を持つ人の気持ちもわかった。減量中はいろんな欲が出てくることも。

ヤン:これは実際にやらないとわからないよね。

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