引退セレモニーで、トラックに祈りを捧げるボルト (c)朝日新聞社
引退セレモニーで、トラックに祈りを捧げるボルト (c)朝日新聞社

  9月25日発売のアエラ10月2日号の表紙に、先日引退を発表したウサイン・ボルトさんが登場! 撮影現場での様子を、特別にちょっとだけ、お伝えする。

【蜷川実花さんが撮影したAERA表紙はこちら】

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 9月9日の昼下がり、東京都内のスタジオで、私たちはある人物を待っていた。予定の時間になっても、なかなか姿を現さない。とそこに一本の電話がかかってきた。受けたスタッフが電話を切って一言。

「おなかが減っているみたい。中華の出前を用意しておきたいんですが」

 チャーハン、焼きそば、春巻き。出前が届いても、彼は来ない。「冷めちゃって、まずくならないか……」と心配になったころ、ウサイン・ボルトがスタジオに現れた。

 言わずと知れた、陸上男子100メートル、200メートルの世界記録保持者だ。

 SPやスタッフに囲まれていたが、ひときわ大柄でやはり目を引く。だが、陸上競技場のスタートラインで見せた眼光の鋭さはなく、至って穏やかでもの静か。楽屋に入ると扉を開けたまま、はしを器用に使って仲間たちと焼きそばや春巻きをつまんだ。

 撮影が始まると、日常的に好んで聴いているというレゲエ音楽が流れるなか、カメラマンのリクエストに快く応じた。現役を引退したとはいえ、Tシャツの袖を肩までまくり上げると、その筋肉に目がくぎ付けになる。インタビューで語ったのは、ラストランとなったロンドン世界陸上の後の気持ち、自身が作ったチャリティー基金、子どもたちのためのスポーツ振興……。

 すべてが終わるといたずらっぽく笑い、階段の踊り場であのポーズ。かかわったスタッフすべてと握手を交わして、スタジオを後にした。大きくて温かい、乾いた手だった。(アエラ編集部 澤志保)