本誌は47都道府県にアンケートし、都道府県内にある美術工芸品の数と、「都道府県の成り立ちにかかわる」「観光客に人気」「他の都道府県民にもアピールしたい」といった判断基準で「イチ押し」美術工芸品を選んでもらった。「どれか一つを選ぶことは難しい」と回答してきたところも多かったが、冒頭の石川県のように熱いエピソードをつけて「イチ押し」お宝を紹介してくれたところもある。
宮城県にある「多賀城碑」は8世紀、陸奥国府のあった多賀城の修造を記念して造られた石碑。「日本一重い?古文書!」(県担当者)という。東京都の白鳳仏「銅造釈迦如来倚像」(深大寺)は今年、都内の寺院伝来の仏像唯一の国宝指定を受けた。
行政が管理するお宝だが、残念なことに現在所在不明のものもある。文化庁は5月17日、国宝、重文指定の美術工芸品約1万件のうち、昨年度末で164件が所在不明と発表した。
●盗まれる文化財
行方不明の理由のひとつが盗難だ。特に山中や寺社の離れなどに「お宝」が保管されている場合、窃盗犯に狙われやすい。「絵や巻物といった、持ち運びやすいものが特に狙われる」と、ある県の文化財担当者は語る。
島根県では2005年、出雲市にある鰐淵(がくえん)寺から、後醍醐天皇(1288~1339)直筆とされる「御願文(ごがんもん)」などが盗まれた。寺の鍵が壊されていた。それ以外の収蔵品はすべて県の歴史博物館に寄託されたという。
「美術工芸品を地元から動かしたくないと考える所有者も多い。センサーや警備業者を頼んだりとかなり大変」(県担当者)
最近では文化財をめぐる防犯意識が高まり、文化庁は盗難対策のため年1回は防犯対策の指導研修会を県や市町村担当者対象に開く。それでも、年に1回は文化財の盗難情報が出てくる。
盗難以外にも別の理由がある。ある県では県指定の文化財が、保有者が亡くなり、相続される過程で行方がわからなくなってしまった。現在も捜索中だ。
●相続のどさくさで不明
「持っていた方が保管場所を告げずに亡くなり、家族の人が見つけられない、というケースが結構あるんです」(担当者)
お宝以上に散逸してしまいがちな「古文書」の収集については「『古文書収集基準』を定め、歴史資料として重要なものについて調査を行い、収集に努めている」(香川県・県立文書館)という回答もあったが、ある県は「資料購入費に限りがあるため、貴重な資料を寄贈に頼るしかない状況にある」と打ち明けた。(福井洋平)
※AERA 2017年9月25日号
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