政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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北朝鮮は8月29日の中距離弾道ミサイル「火星12」に続き、今月3日に6回目の核実験を強行しました。この過去最大規模の核実験は、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水爆」だと発表されています。
突如、北海道上空を通過した「火星12」に、私たちは意表を突かれました。予告とはまったく違うコース、そして早朝。これは、まさしく奇襲です。ある歴史家が北朝鮮はパルチザン国家だと言いました。なぜなら、パルチザンの最大の戦略は奇襲にあると──。後の北朝鮮の公式な発表を見ても、奇襲ということをかなり意識していたことがわかります。
今回のミサイル発射は、日本への威嚇的な効果があったものの、日米には温度差が感じられた最中の核実験でした。かつて米国のケネディ大統領は、1961年の国連演説で「老若男女あらゆる人が、核というダモクレスの剣の下で暮らしている。世にもか細い糸で吊るされたその剣は、事故か誤算か狂気により、いつ切れても不思議ではない」と訴えました。北朝鮮が水爆を搭載したミサイルをグアムまで飛ばせるということは、その剣の下に米国を置けるということになります。つまり北朝鮮は米国にボールを投げたのです。
核実験の強行を受け、トランプ大統領はマティス国防長官らとの協議後、「大規模な軍事的反撃をする」と警告を出しました。これまで外交的解決を明言してきたマティス氏が軍事行動を示唆したことからも、強い危機感が感じられます。万が一、米国が軍事的反撃を行った場合には、北朝鮮がグアム沖までミサイルを飛ばす可能性は高まります。
一方で現実路線として核とミサイル開発の現状をフリーズさせ、核拡散と管理を前提とした米朝直接交渉となれば、梯子を外されたと思う日本国内からの不満の声は少なくないでしょう。日本の危機が構造化しないためにも、まずは早急に北朝鮮を除いた5者協議を開くべきです。5者協議を開いて各国の朝鮮半島の非核化に向けた温度差をどこまで埋められるのかがカギになります。その上で北朝鮮を6者協議に組み入れて直接交渉をしていくという、何段階かの平和的解決が不可欠だと思います。
※AERA 2017年9月18日号