タワーマンションの大規模修繕は、洋の東西を問わず、維持管理上の大切なイベントである。その方法を誤ると、生命の危機に瀕する。

 6月14日未明、ロンドンの超高層住宅「グレンフェル・タワー」(24階・120戸・74年竣工)で火災が発生し、建物は瞬く間に炎に包まれた。ここも1~4階が商業施設で5階から上が住宅だった。低層階から出火し、大規模修繕を終えたばかりの外装材、断熱材が激しく燃焼。79人の死者・行方不明者を出した。原因究明の途上で軽々には論じられないが、私が注目するのは修繕前に住民が火災への懸念を表明していた事実だ。

 英国の公共放送BBCの報道によると、住民団体「グレンフェル行動グループ」は地下ボイラー室やエレベーター管理室などの消火器の使用期限がとうに切れていたことから火災リスクの高さを訴えていた。住民団体は、2016年11月にブログで「破局的な出来事」が起きない限り、タワーの危険な生活は終わらないと書いている。

 これに対し、地元ケンジントン・チェルシー行政区から建物の維持管理を託された管理団体は真摯に応じていたのだろうか。タワーは低所得者層向けの住宅だ。大規模修繕を行ったはいいが、外装材を安価で燃えやすいものに変えたともいわれる。維持管理に当たる「専門家」は、「素人」の住民、まして英語も十分に通じない移民の意見を軽んじたのではないか……。

●管理士の恫喝めいた手紙 マンションは騒然

 多くの人は建築基準法の防火規制が厳しい日本では、グレンフェル・タワーの悲劇は起きない、と言う。しかしながら、専門家が住民を抑えて維持管理を牛耳ろうとする姿は似ている。日本の分譲マンションでも専門家による小さな悲劇はあちこちで起きている。

 たとえば、悪質コンサルタントは素人集団の管理組合につけ入る。手口はこうだ。マンション改修に携わる建築士が、標準の半額から3分の1の格安委託料でコンサルを引き受ける。そして、息のかかった工事業者に大規模修繕を高額で受注させ、陰で業者からリベートを取る。建築士は大規模修繕が終わった後も管理組合と顧問契約を結び、不必要な修繕、補修工事を次々と発注させ、裏金を懐に入れる。知らぬは住民ばかりなり。

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