超高層マンションは、「都心回帰」の宣伝コピーと、建築関連法の改正による容積率の引き上げが呼応して林立した。巨大地震によるエレベーター停止や地盤の液状化への対策などが急がれる[写真は本文とは関係ありません](撮影/写真部・大野洋介)
超高層マンションは、「都心回帰」の宣伝コピーと、建築関連法の改正による容積率の引き上げが呼応して林立した。巨大地震によるエレベーター停止や地盤の液状化への対策などが急がれる[写真は本文とは関係ありません](撮影/写真部・大野洋介)

 市街地の再開発事業で建設され、低層に商業施設が入るタワーマンションは多い。だが、商業施設と上階の住宅部分の意見が合わず、上階だけで大規模修繕を実施するタワマンもある。

 タワーマンションは、ひとつとして同じものはない。最先端の工法や材料を採用し、トレンドを反映している。あるいは、開発時の事情を引きずったルールが存続し、分譲マンションの常識が通用せず、首を傾げることもある。超高層は時代を映す鏡なのだ。

 一昨年の初夏、設計事務所と調査診断会社でつくる建物診断設計事業協同組合(建診協)の理事長・山口実(66)は、タワーマンションの大規模修繕の相談を受け、「うーん」と唸った。依頼主は横浜市港南区の「横浜ヘリオスタワー」(307戸・2004年竣工)のカミオ管理組合・ヘリオス住宅部会であった。

 山口が頭を抱えたのは、同じ管理組合なのに、地下1階~地上4階の店舗や事務所は施設部会を構成し、大規模修繕に加わらないからだ。外壁の補修や屋上防水は、住宅部会が管理する5~30階の住宅部分だけで行うという。

「長年、建物改修に関わっていますが、こういうケースは初めて。低層階には作業に必要な仮設足場も掛けられません。機材の搬入や、関係者の連絡、調整を考えると気が遠くなった。でも挑戦のしがいはありました」

 と、山口は振り返る。

 管理組合理事長で住宅部会長の山根萬(78)は、建診協にコンサルティングを委ねた理由を、こう語る。

「設計事務所の提案してきた修繕プランが不十分で、工事監理が必要でした。それで交流のあった建診協にコンサルを頼んだ。営利目的の商業施設と、生活の質を保ちたい住宅の意見が合わないのは入居当時からですよ」

●求められる膨大な調整作業 建物丸ごと修繕できれば

 カミオ管理組合では、商業施設とマンションの摩擦を避けるために施設部会の代表も理事長に就いている。珍しい理事長2人制だ。

 商業施設を管理する上大岡都市開発の担当者は、「元々、別の組織なので(2人制に)問題はありません」と言う。

 実際に工事監理に当たった建診協メンバーの吉田潤(53)は、工期11カ月、約4億5千万円をかけた修繕工事の苦労を、次のように述べる。

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