稲田防衛相「自衛隊もお願い」発言が自民党誤射(写真はイメージ)
稲田防衛相「自衛隊もお願い」発言が自民党誤射(写真はイメージ)
この記事の写真をすべて見る

「自衛隊としてお願いしたい」。東京都議選でそう訴えた稲田朋美防衛相。自民候補への投票を求めた失言は即日撤回。支離滅裂と首相の擁護はいつまで続くのか。

 発言は6月27日夕、東京都板橋区での集会で飛び出した。

「東京都ではテロ対策、首都直下型地震も懸念される。防衛省・自衛隊と手を携えることが非常に重要だ。地元と国政をつなぐのは自民党の都議会の先生しかいない。○○候補(実名)を防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」
 厳しい報道を知った菅義偉官房長官に注意され、深夜に記者会見を開いて発言を撤回。「板橋区の近くに練馬駐屯地もあるので」と釈明した。駐屯地周辺に住む陸上自衛隊員は創価学会員に匹敵する票田とされる。安倍自民党と都民ファーストの会(代表・小池百合子都知事)の首都決戦は佳境で、稲田氏は援護のつもりだったのだろう。

●誤解される政治的中立

 発言はめまいがするほど問題だらけだが、大きく二つだ。国民を守る自衛隊を統括する防衛省のトップとして、自衛隊の運用がそんなに自民寄りでいいのか。そんな軽さで、実力組織の「制服組」約23万人、文官の「背広組」約2万人の自衛隊員らに示しがつくのかということだ。

 まず自衛隊の運用だ。テロや災害で自衛隊の派遣が一刻を争う時、首長や議会で自民党が強い自治体を稲田氏が優先すれば、少なくとも「公務員は全体の奉仕者」とする憲法に反する。

 自衛隊員への示しはどうか。

「○○候補を自衛隊としてお願い」する稲田氏が、仮に○○候補への投票や支援を命じれば、自衛隊員の思想・表現の自由への侵害でやはり憲法問題だ。自衛隊員は自衛隊法などで政治的行為を制限され、選挙で特定候補の支援を禁じられてもいる。

 閣僚を含む公務員の「地位利用による選挙運動」を禁じた公職選挙法にも反しかねないが、30日の記者会見では「意図は全くない」と逃げの一手。弁護士とは思えない非常識な態度だ。

 そもそも自衛隊は、中国や北朝鮮のような一党独裁国家の「党の軍隊」ではない。制服組のある幹部は「我々は政治活動はだめだと徹底されている。大臣が何を言おうと関係ない。でも、あきれます」と迷惑そうだ。

次のページ